方向音痴の人は最短距離で目的地に到着できないため、時間のロスが多い。

「私は、初めて行く場所は最初から迷うと想定して、その場所の周辺に30~40分前には着くように家を出ます。これで困るのが、意外とすんなり目的地に着いた場合。そうすると、20分くらいの手持ち無沙汰な時間が生まれてしまうんです」

 20分というのはカフェで休憩するほどの時間でもない。方向音痴のビジネスパーソンであれば、このように時間を無駄にしてしまった経験がある人もいるだろう。

「ビジネスパーソンは取引先に出向いて商談やプレゼンをすることもありますよね。私の場合は取材やインタビューですが、そうしたメインタスクの直前はどんな職種でも緊張するでしょう。しかし、方向音痴だと『ちゃんと取材先に着けるだろうか』『迷って遅刻したらどうしよう』など、本題ではないところでもプレッシャーを感じ、仕事をする前に疲弊してしまうのです」

目的のない散歩で
アイデアが湧くことも

 本書では、吉玉さんが方向音痴を直すために試行錯誤する様子が記されている。方向音痴のメカニズムを知るために認知科学者の先生に話を聞いたり、さまざまなマップ・ナビアプリを試してみたり、地図や地形のエキスパートと一緒に街歩きをしたりと、あらゆる方面からアプローチしているのだ。

「いろいろな方法に挑戦するなかで感じたのは、『迷うのも楽しい』ということです。地形に詳しい(東京スリバチ学会会長の)皆川典久さんも、地名に関する著書も多い地図研究家の今尾恵介さんも、おふたりとも取材の際に『迷うことも楽しいですよ』とおっしゃっていて、それから意識が変わりましたね」

 これまで、「迷うことは怖いこと」と感じていた吉玉さん。そんな彼女が「迷うことは楽しいこと」と思えるようになったのは、やはり方向音痴を克服したからなのだろうか。