「イノベーションのジレンマ」は
コンテンツ業界にも、モノづくりの世界にも発生する

山口 イノベーション、というテーマで一番最初によく言われるのが、「蒸気機関」の話です。動力が石炭から電力に変わった時に、蒸気機関で作られていた工場が、なかなか電気にシフトできませんでした。工場のレイアウトそのものが「蒸気機関」に最適化されていたので、なかなか変われなかったということなんです。

 産業構造って、あるスタンダードに最適化するようにでき上がってしまいます。今のコンテンツの話で言うと、パッケージメディアを作るかたちで最適化されてるから、インターネットが出てきたときに、既存のメディア産業の中の人たちはなかなか適応できない。まあ、クリステンセンの提唱する「イノベーションのジレンマ」ですよね。モノ作りもそうだなと思います。

 ちょうど昨日、ある自動車メーカーさんと議論をしてたんですけど、「いろんな技術を持っているからいろんなことを考えているんだけど、新しい領域に出て、うけるかどうかがよく分からない。でも、やってみたいという気持ちはあって」と。

 だったら、お客さんも含めた実験を立ち上げて、家の中に入るロボットのようなモノはできるんじゃないか? という議論をやっていたんですけど、「おもしろいなと思うんだけど、何がうけるか分からない」と。

 何がうけるかよく分からないんだったら、未来の家庭の中でのロボットの使われ方を100通り考えて、世界中の文化圏にそれを送って、市場の文脈の中でどういう使われ方が見つかるのか1回やってみたら?って言ったら、「うちはβ版というのは出せないんですよ」って言って…。

尾原 え?いまだに??

山口 このパターン、来たなぁと思って。いや、β版を出すということではなくて、ステークホルダーと一緒に作り上げていくことはできないんですか?って言ったら、「うーん」って言って。

 さっきのコンテンツの話も、製品を作っていく上での産業の構造そのものも、思考の様式も、なかなかアップデートが難しいなと思いましたね。

尾原 そうですね。

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