益出し余力は、本業の稼ぐ力の何倍の含み損益を抱えているかを示す。2024年3月期決算の数値を基に、地方銀行100行の益出し余力を算出したところ、株高の恩恵を受け82行が改善したものの、下位行は顔触れが固定化している上に数値の悪化が見られた。特集『銀行危険度ランキング2024』(全6回)の#5では、格差が一層拡大している現状を、ランキングで明らかにした。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)
株高で益出し余力に追い風
100行中82行が前期から改善
「益出し余力があれば、万が一損失が発生したときに穴埋めできるが、余力がなければ穴埋めはできない。従って融資などの判断は、どうしても保守的になる」
ある大手地方銀行首脳は、益出し余力の効用についてこう説明する。
益出し余力とは、銀行経営の安定性を測る指標の一つだ。銀行が保有する株式や債券などの有価証券の評価損益(含み損益)を、コア業務純益で割り、銀行が本業で稼ぐ力の何倍の含み損益を抱えているかを示す。
益出し余力がプラスで、その数字が大きいほど、現金化できる有価証券が潤沢であることを示す。仮に損失が発生したとしても相殺できる余力がある。
一方、含み損を抱えている銀行は、益出し余力はマイナスとなる。マイナスが大きいほど、その銀行にとって過大な含み損を抱えていることを示す。
含み損は実現損として計上しなければ、決算への直接的な影響はない。ただし、冒頭の大手地銀首脳が言うように、融資判断などの本業に影響する。そのため、2022年3月に米国金利が短期間で急上昇し、保有する外国債券や投資信託で含み損が膨張した事態は、地銀各行にとって悪夢でしかなかった。
それだけではない。23年7月には日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の運用柔軟化を決めたのをきっかけに国内金利も上昇を始め、国内債券の評価損益も悪化し始めたのだ。
こうして22年3月末、国内債券と外国債券、投資信託などの評価損(含み損)は地銀全体で約3600億円だったが、1年後の23年3月末には約1兆8000億円にまで拡大。23年9月末には約2兆8000億円にまで達した。
そんな悪夢の中で一筋の光明となったのは、24年1月からの株高だ。24年3月には日経平均株価は4万円を突破。株式の含み益が増大したことで、有価証券全体の含み損益が好転し、次ページで掲載した最新の益出し余力ランキングでは、地銀100行のうち82行で前期から改善している。
ところが、益出し余力改善の波に乗り切れない地銀もある。しかもランキングの下位の“貧乏組”は、前期と顔触れがほとんど変わっていない。次ページで、“貧乏組”が浮上できない理由とともに、最新ランキングをお届けする。