コングロマリット・ディスカウントとは、複数の産業分野で活動する企業(多角化企業)が同じ産業で活動する専業企業に比べて投資家から低く評価される傾向を指す。多角化により企業価値の低下が生じている状態を示唆するものだ。つまり、コングロマリット・ディスカウントの解消とは、会社を解体して、解体した事業をバラ売りせよという提案だ。バラ売りして入ってきた対価(現金)は、株主資本主義によると、株主に帰属することになるので、当然ながら、株主の懐に入ることになる。

 東芝の場合、量子暗号やインフラ関連の世界的な高水準な技術を持っている。また、大量破壊兵器技術にも直結する原子力技術も保有しているし、宇宙開発関連技術、さらには防衛産業にも参入しミサイルなどの技術も有している。これらは全て軍民両用技術だ。

 これらの事業を第三者に売却すれば、当然、高い価格で売却が可能だ。では、アクティビスト・ファンドはどこに売ろうと考えているだろうか。

 同報告書の22ページにヒントがある。アクティビスト・ファンドは、Allen Chu氏を東芝の役員に選任せよと要求している。

 筆者が注目したのは「Allen Chu氏は、阿里巴巴集団控股有限公司(アリババグループ)や中芯国際集成電路製造公司(SMIC)を含む、計9社の社外取締役経験も有しており、今後当社が注力するIoT分野においても豊富な知見と経験を有しているため、当社の成長に貢献することができます」という部分だ。

 特に、SMICは、米財務省の「軍産複合体企業リスト」に記載された59社のひとつで、大統領で米国の投資家が投資を禁止される人民解放軍と密接な関係にあるとされる企業だ。このため、同社は米国政府のエンティティー・リスト(ブラックリスト)にも掲載されている。

 このような企業の社外取締役を務めた候補者であれば、人民解放軍や中国共産党政府との関係も気になるのは当然である。

東芝のバラ売りによる
安全保障リスク

 中国は、軍民融合政策の国だ。軍民融合政策(Military-Civil Fusion strategy)とは「中国共産党が人民解放軍を世界クラスの軍に発展させるため、民間企業を通じて外国の技術を含む重要・新興技術を取得・転用する戦略」(米国務省の定義)である。

 この背景には、智能化戦争(Intelligent Warfare)への対応を急ぐ中国の事情がある。防衛省防衛研究所地域研究部中国研究室研究員の八塚正晃氏は、智能化戦争について「智能化戦争とは、『モノのインターネット(IoT)システムに基づき、智能化した武器装備とそれに対応した作戦方法を利用して、陸・海・空・宇宙・電磁・サイバーおよび認知領域で展開する一体化戦争』と言われる。人民解放軍は、智能化戦争に適応するために、今後、自身の軍隊編成、武器装備体系、訓練体系を変化させていくと考えられる」と解説している。つまり、一国の科学技術力が、智能化戦争の勝敗を決めるのだ。