中国共産党の習近平執行部は、智能化戦争で、米国軍に勝ち、中国を中心とする新しい世界秩序をつくる野望を隠さない。このために、西側諸国から手段を選ばず軍民両用技術や機微技術を窃盗し、人民解放軍の兵器や武器に軍事転用し、他国の安全を脅かしている。

 このため、米国のトランプ大統領(当時)は、2019年度国防権限法や同法と同時に成立した外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)や輸出管理改革法(ECRA)で、米国からの軍民両用技術や機微技術の流出に規制をかけた。この動きを受けて、わが国でも2020年に改正外為法が施行された(この流れについては、拙書『経済安全保障リスク』に詳しいので、関心のある方は、こちらをご覧いただきたい)。

 コングロマリット・ディスカウントの解消要求(東芝のバラ売り要求)、人民解放軍や中国政府との関係が懸念されるAllen Chu氏の役員選任要請、共産中国の軍民融合政策、智能化戦争対応を考えると、力で国際秩序を変更することを公言する共産中国へ智能化戦争用兵器に軍事転用できる機微技術を持つ東芝を解体して高値で売却し、その高額な売却対価をアクティビスト・ファンドの懐に入れるという筋書きが見えてくる。

 もしも、このようなことが実現すれば、アクティビスト・ファンドは大もうけをする一方、有事の際に、自衛隊員や日本国民が、日本企業である東芝由来の軍民両用技術を使った人民解放軍の兵器で殺されることも起こりうる。このようなことが許されるはずはない。だが、東芝から機微技術や軍民両用技術が懸念国に売却されたことで起きうるリスクについて触れるメディアはほとんどない。

軍民両用技術を持つ東芝は
日米共同監視対象にするべき

 軍事転用可能な技術の海外移転を管理、規制しているのが、外国為替及び外国貿易法(外為法)だ。財務省が主管しているが、経済産業省や内閣官房国家安全保障局経済班も一緒に動いている。

 外為法は2020年に大きく改良され、軍事利用が可能な軍民両用技術を持つ産業分野をコア業種とし、この産業分野に該当する企業をコア企業とした。東芝はこのコア企業の1社である。

 記事の冒頭で触れた調査報告書では、東芝と経済産業省が緊密に連携したことを問題視しているが、外為法の趣旨を考えれば、経済産業省が東芝と接触することそのものには、問題がない。むしろ、広範な経済安全保障の情報収集のために、経済産業省はもっと積極的に各コア企業との接触を増やすべきである。

 調査報告書では、東芝を担当した経済産業省の情報産業課長(当時)が、外為法担当でないにもかかわらず、外為法に基づく規制をほのめかしたことを問題視している。この点に対して、細川昌彦明星大学経営学部教授が、ダイヤモンド・オンラインの記事で明快に解説している。

 前述の通り、中国が、世界秩序を武力で変更しようとしている。その中国に日本由来の軍民両用技術を持つ事業や防衛部門を、「コングロマリット・ディスカウント解消による企業価値向上」という理由で、高値売却することを正当化し、売却して得た現金を配当などの形を取り自分らの懐に入れようとするアクティビスト・ファンドを正当化するメディアによる世論形成は危険だ。