国家が、一部の株主の投資リターンよりも国民の生命と財産を守ることを優先するのは当たり前のことだ。安全保障に基づく投資規制は、投資家の利益よりも優先するので、国家安全保障に悪影響を及ぼすM&Aは外為法により阻止されるのは正当な行為である。

 これまで述べてきた経済安全保障上のリスクを考えると、東芝の機微技術や軍民両用技術が、中国に渡り軍事転用されることは看過できない事態だ。これらの機微技術の移転が同盟国である米国にも大きな影響を及ぼす。

 東芝は、中国企業のテンセントが大株主になった楽天グループと同じく日米共同監視対象にして、機微技術や軍民両用技術が懸念国の手に渡らないように日米で監視することが必要だ。改正外為法に対米外国投資委員会(CFIUS)のような海外機関との連携強化が盛り込まれている。

株主資本主義により
しゃぶりつくされる日本企業

 日本企業は、海外投資家から促され、「会社は株主のもの」と考える株主資本主義経営への転換を強いられてきた。市場原理を前面に立て、短期利益を重視する。このため、四半期決算制度が導入され、企業経営者は決算対応に多くの時間を使わなければならなくなった。しかも、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が導入され、社外取締役の義務化や増員、株主は総還元性向を上げよと際限なく要求する状況に至った。

 オックスフォード大学の学部教育、MBA、Executive MBA 等において、多年にわたりベスト・プロフェッサー賞等を受賞した法務省危機管理会社法制会議審議委員である早稲田大学商学部教授のスズキ・トモ氏は日刊工業新聞の中で「このままだと日本企業は機関投資家に食いつぶされる」とし、さらに次のように解説している。

「ある欧州のビジネススクールでは対日本市場戦略について『日本市場が本格衰退する前に、日本企業に自社株買いや高い配当を要求する。それを継続することが不可能になるまでしゃぶりつくし、最終的には株価が下がる前に高値で売り抜けることが最も効率が良い』とアドバイスしている」

 東芝は今年度(2022年3月期)に計約1500億円規模の追加株主還元を表明している。

 そのうち500億円で1株110円の特別配当を実施するため、普通配も含めた今期の年間配当は190円(前期は80円)と2倍を超える。また、1000億円を上限とする自社株買い(発行済み株式の6%に相当)も進めている。まさに、強欲株主にしゃぶられている。この資本政策が、果たして技術力も含めた東芝の本業力強化につながるのだろうか。

 このように、株主資本主義とは、投資家が日本企業をしゃぶりつくして肥え太ることを正当化するための“理屈”にすぎず、企業に働く人たちや取引先には何の恩恵ももたらさないと筆者は考えている。

 アクティビスト・ファンドが、あたかも正義のヒーローであるかのような報道が、いかに底の浅い内容で、「物言う株主が正しい」と誤解する世論が間違えているものかがお分かりいただけたと思う。