これからはパトロンが
「民主化」する

山口 僕も自分にひも付けて考えてみると、例えば坂本龍一さんがいて、音楽家としてパッケージの完成品の曲を売っています。あるアルバムが発売されて、制作に2年間かかりました。その2年間のプロセスを、スタジオで活動している時間が記録されたものが見られます。となると、相当数のファンは買うんじゃないかという気がするんですよね。

尾原 そうですし、坂本龍一さんで言うと、いわゆるスタジオアルバムって昔は毎年出されていたけど、だんだん2年に1回になり、5年に1回になりになってきますよね。そうすると、アルバムという完成品だけでビジネスをしていると、その間にある程度の収入がないと…。

 例えば、漫画家にも似たような傾向があります。1回ヒット作を当てると、本当はヒット作をやめたくても、次にヒット作を出すまでの間、水に潜って新しい作品を作る苦しみに耐えられるのか? という葛藤で苦しむわけです。経済的にしんどいかもしれないから連載を続けてしまって、次の新作を作れなくなるというパターンもあるんです。

 これ、有名な例だと『ドラゴンボール』の作者の鳥山明さんです。もしかしたら「魔人ブウ編」に入る前でドラゴンボールをやめていたら、次にもう1本、ドラゴンボールクラスの新作を作れたかもしれない、と担当編集の方がボソッとおっしゃったという話があります。

山口 なかなか罪作りですよね。

尾原 そうなんですよ(笑)。

山口 これもさっき言った、作家そのものよりも、周辺を取り巻くシステムの問題ということになっちゃいますよね。

尾原 はい、そうです。だから、もしそのときに「オンラインサロン」みたいなものがあって、鳥山明さんが新しいチャレンジをしまくって、「完成品じゃないものを途中公開していきます!」というのが月額1000円だったら、少なくとも僕は入ります。鳥山明さんクラスになると、確実に1000人が入るとして、それだけで月100万円が入るから、アシスタントを雇いながらトライアルし続けることができるわけじゃないですか。

 これって昔だったら、1人のすごいパトロンの方がいたけれど、ある種「パトロンの民主化」だと思うんですよね、制作者にとってみると。そういう世界は、そろそろ出始めているのではないかと思います。

 BTSとかの話に戻すと、BTSも大きい曲を出した後は、ライブ活動をやったり、YouTubeを公開したりして、ファンのコミュニティー収入の中で、次の大きいところを目指していきます。もっとおもしろいのが、グッバイ&カムバックというのがあって。

山口 はい。

尾原 BTSのメンバーが途中で悩んで離脱して、修行の旅に出るんです。で、戻ってくると、髪の毛の色が変わっているだけではなくて、違う言語を話せるようになっていたり、「新しい造形を見つけた!」みたいなことを言って、戻ってきたメンバーと残りのメンバーとの間で新しい創発が生まれて、新しい作風ができたみたいなストーリーがあって。

「プロセスの中で、次のアウトプットの異常進化を生むためのサイクルを作る」という、そういうところも含めたプロセスエコノミーが、BTSにはあるんです。

山口 なるほどね。

尾原 そこの成熟度がどんどん進化していっていて、韓国エンターテインメントすごいなと。むしろ、プロセスエコノミーの過当競争になってきていて。いろんな手法が編み出されていっているのが今なんですよね。

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