武田薬品 製薬エリートの真実#4Photo:PIXTA

新型コロナウイルスワクチン・治療薬開発で「周回遅れ」の国内製薬業界を尻目に、世界の製薬業界はコロナバブルに沸いている。大借金を伴う巨額企業買収で世界トップ10入りした武田薬品工業はバブルに乗れず、今年度はトップ10から陥落する恐れが出てきた。特集『武田薬品 製薬エリートの真実』(全8回)の#4は米ファイザーなど世界の競合との実力差を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

自社でコロナワクチンを作れなかったのは
「われわれだけではない」

「自社でワクチンが作れないか速やかに検討し、当時これを速やかに実現する技術がなかった。われわれだけではありません」――。

 今年6月の武田薬品工業の定時株主総会。世界で需要が高い新型コロナウイルスワクチンに関し、クリストフ・ウェバー社長兼CEO(最高経営責任者)はこう述べた。さらに「上位15の世界的な製薬企業の中で、自社でワクチンを作ることができたのは1社だけ。それ以外は全てバイオ企業、その他の技術を導入した」と強調した。

 ワクチン事業を抱える武田薬品だが、コロナワクチン開発では早々に外部提携の道を選んだ。ある武田薬品関係者は「日本人に早くコロナワクチンを届けるための国内最大手としての責任」と胸を張る。

 提携先はベンチャー企業の米モデルナと米ノババックス。

 モデルナワクチンは今夏に異物混入問題があったが、このとき武田薬品の株価はほとんど下がらなかった。製品を輸入して供給するだけの販売代理店モデルで「ビジネス上のうまみはない」(別の武田薬品関係者)ことが、投資家にも見透かされていたのだろう。

 早ければ年明けから国内供給されるノババックスワクチンは、武田薬品への技術移転と国内生産が伴う。クレディ・スイス証券の酒井文義アナリストは「自社である程度の供給コントロールが利き、そこそこの利益を上げられるだろう」とみるが、市場は既に群雄割拠。伸びしろが残されているのか不透明だ。

 コロナ治療薬については、海外複数社とアライアンスを組んで開発に取り組んだものの有効性を確認できず、今年4月に開発を断念した。モデルナワクチンの販売代理と比べてこちらは投資家の期待もあったのだろう。このときは株価が約10%下落し、今も低迷が続く。

 武田薬品は2019年にアイルランドのバイオ医薬大手、シャイアーを約6兆円で買収し、20年度売上高は3.2兆円。だがコロナバブルに乗れず、世界トップ10から陥落の恐れが出てきた。世界と日本の製薬企業ランキングはコロナ禍を機にどう変わろうとしているのか。