日本の半導体関連産業は
なぜ凋落したのか

 わが国半導体関連産業の現状は、部材や製造装置の分野で国際競争力を発揮している。また、車載やパワー、音響、画像処理センサーなどの汎用型の半導体分野でもわが国メーカーは一定のシェアを持つ。

 その一方で、デジタル化の加速を背景に中長期的な成長が期待されるメモリーやロジック半導体の分野では、世界最大のファウンドリである台湾積体電路製造(TSMC)や韓国のサムスン電子などのシェアが圧倒的だ。2019年時点で世界の半導体市場に占めるわが国企業の売上シェアは10%程度とみられる。

 しかし、歴史を振り返ると1988年の時点で日の丸半導体は約50%の世界シェアを確保した。そこから凋落した要因は、日米半導体摩擦の激化、台韓半導体メーカーの成長、国際分業の加速、わが国産業政策の失敗などいくつかある。その一つとして、産業政策に注目してみたい。

 90年代に入り本邦半導体産業が国際競争力を失う中、99年にNECと日立製作所のDRAM事業が統合し、それを母体に官主導でエルピーダメモリが設立された。しかし、2012年にエルピーダは経営破綻した。

 その要因の一つは、官には事業運営の効率性向上を目指す発想が乏しいことだ。また、最先端の研究開発の動向や事業環境の変化の把握に関しても、政府に優位性があるとはいえない。官主導でコンソーシアムは組んだものの、エルピーダ内部では製造技法や人事権を巡って組織が対立し、混乱した。

 一方、世界の半導体産業ではメモリーよりもロジック半導体の生産強化が加速し、わが国半導体産業は環境変化に取り残され、エルピーダの命運は尽きた。日の丸半導体の凋落によって、キヤノンなどはEUV(極端紫外線)露光装置の開発を続ける経営体力(資金力)を強化できず、開発を断念した。その結果、最先端のロジック半導体生産に必要なEUV露光装置は、オランダのASMLが事実上独占している。