ついに、日本政府の悲願達成に一歩近づいた。台湾TSMCが日本で巨大半導体工場を建設する方針を表明したのだ。「先端拠点」誘致を陰で支えたのはソニー。その一方で、新工場の計画に参加するデンソーの役割は見えないままだ。特集『脱炭素地獄』の#1では、経済産業省とトヨタの思惑先行で描かれる国内半導体産業の「一発逆転シナリオ」の行方を追う。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
TSMCトップと岸田首相の“共鳴”で実現
半導体誘致を実らせた経産省の執念
見事な“日台半導体連携”の演出だった。
「われわれは顧客と日本政府から強い支持を得た」。10月14日、半導体受託生産最大手の台湾TSMCの魏哲家最高経営責任者(CEO)が決算電話会見で日本進出を表明した。
それから3時間余り。今度は、岸田文雄首相が「TSMCの1兆円規模の大型民間投資などへの支援を経済対策に盛り込む」と表明し応じてみせた。
この筋書きを演出したのは経済産業省である。TSMCの決算日と衆議院の解散日が重なり、岸田首相の会見のスピーチ原稿に「TSMC支援」の文言を滑り込ませたのだ。TSMCと1年以上にわたって水面下で交渉を重ねてきた経産省が、“悲願達成”に近づいた瞬間だった。
経産省がTSMC誘致で狙うのは「日の丸半導体」の復活だ。国内生産拠点の誘致は、脱炭素とデジタル化に不可欠な半導体の欠乏懸念、経済安全保障の強化という全ての課題解決に直結する。
だが、誘致表明で一件落着というわけにはいかない。今回TSMCの合弁プロジェクトには、半導体の大口需要家としての役割を期待されてソニーグループとトヨタ自動車傘下のデンソーが参画することになっている。
早期にイメージセンサーの実需が見込めるソニーはともかく、次世代の車載半導体の試作品すらないデンソーにその役割が果たせるのかどうかが、新工場成功のポイントになりそうだ。
そして、あえてデンソーを滑り込ませた背景には、経産省とトヨタの深謀があった。