「茶畑」の地図記号は
なぜ「丸い点が3つ」なのか?

 さて、「茶畑」の地図記号が「丸い点が3つ」の理由ですが、それは、「お茶の実」を表しているためです。

茶の実を切ると現れる「3つの丸い点」茶の実を切ると現れる「3つの丸い点」 提供:ONE・GLOCAL

 私自身、茶畑の地図記号は、何となく記憶の奥にはあったものの、日常生活の中で思い出すこともありませんでした。

 ところが、お茶の生産地を訪れた時、「茶の実」を半分に切るとまさにこの地図記号の形になることを知ったのです。

 しかしこのお茶の実、日常ではまず目にすることがありません。

 飲料として栽培されているお茶は「葉」が命です。一般的に、春先の4〜5月ぐらいに「一番茶」を収穫し、その後、夏にかけて「二番茶」「三番茶」を収穫、10月ぐらいに4番目の「番茶」を収穫します(「番茶」は遅い時期に摘むためもとは「晩茶」と呼ばれていたという説もあります)。「どこまで葉を摘み取るか」は、栽培者ごとに異なります。

「手入れのされている茶畑」では、栽培に農薬や肥料が使われ、収穫しやすいよう、茶の木の枝の形が整えられます。しかし近年、消費量の減少に伴って生産量も減少、後継者不足も重なり、特に山間の傾斜地に位置する茶畑が耕作放棄地となるケースが拡大しています。こうした耕作放棄地の茶の木は肥料を与えられることはないため、子孫を残そうと茶の木が花を咲かせ、実をならせます。

茶の木の花茶の木の花 提供:ONE・GLOCAL

 つまり、「花がたくさん咲いている茶畑」というのは、見る人が見れば、「手入れがされていない畑」と捉えられるわけです。

 そのため、一般的な茶畑では、お茶の花やそれに実るお茶の実は、ほとんど見ることができないのです。

 私は2018年、大量生産の時代に淘汰されてきた希少作物や在来種(他の品種と交配されず、ある地方だけに長年、飼育または栽培されてきた品種)や、「未利用」資源からの素材を活用したサスティナブルなものづくりに取り組むため、ONE・GLOCALという会社をつくりました。そして今、もっとも私たちが注目しているひとつがこのお茶の実なのです。

 前述の通り、お茶のマーケットは厳しいですが、お茶の葉だけでなく、このお茶の実も収益化することができれば、茶葉と実の生産の復業によって、お茶農家にあらたな収益化の可能性があると感じています。

近年、お茶の実は
異業種からの人気が高まっている

 このお茶の実、実は近年、異業種、とくにコスメ業界からの人気が高まっています。

 お茶の木は学名を「カメリア シネンシス」といい、「椿」と同じツバキ科の多年生植物(1年で世代を終える植物に対し、複数年にわたって生存する植物)です。

収穫した茶の実収穫した茶の実 提供:ONE・GLOCAL

 椿油(椿のオイル)が肌や髪などの美容に良いというイメージを持つ女性は多いと思います。この椿の仲間であるお茶の実も、オレイン酸の含有率が80%で、豊富なリノール酸やサポニンが含まれるなど、椿油と同様、高質な油の成分がふんだんに含まれているという研究結果もあります。

 さらに、抗酸化作用の高いビタミンEが豊富で、加熱に強く、保湿効果も高い。そのため、コスメ業界から今、人気なのです。

 コスメ業界では、昨今の国産天然素材の人気の高まりも重なり、お茶の実の引き合いは高いものの、前述の通り、茶畑の副産物であり日本での生産量はわずかです。さらには収穫や搾油にも手間がかかり、お茶の実から搾れるオイルはほんの1割程度。また、お茶の実がなるまでに約14カ月かかるため、その年の花から実を収穫することはできず、1年前の花の実を収穫することになります。お茶の実は安定して栽培されるものではないのです。

 手入れをしている茶畑でもわずかに実はなりますが、お茶の栽培というのは農薬を使うことが多いため、実から残留農薬が検出されることが少なくありません。

 その一方で、耕作放棄地のお茶の実からは残留農薬がほとんど検出されません。実際、2020~2021年にかけて私たちが収穫した茶の実を検査機関で調べたところ、250ある検査項目において、すべて「検出なし」の結果でした。

 私たちは今年、茨城県の「さしま茶」の農家と一緒に、耕作放棄地の茶の実からネイルペンをつくる取り組みをはじめました。猿島台地と呼ばれる平坦な台地で、江戸時代から生産が盛んだったさしま茶は、深蒸し茶として評価が高く、江戸時代に日本で初めて「日本茶」としてアメリカに輸出、日本茶の知名度拡大につながったお茶としても知られています。

茶の実オイルを100%使用したネイルペン茶の実オイルを100%使用したネイルペン 提供:ONE・GLOCAL

 でも、素人には茶の実がどこでいつ採れるのか、乾燥や保管はどうすればいいのか、搾油のタイミングや歩留まり(ぶどまり/原料や素材の量に対し、実際に得ることができた出来高の割合)など、最初はわからないことばかり。

 長年、茶業界で働く知人にアドバイスをもらいながら、収穫、乾燥、保管、搾油を実施。今年に入って、搾油したオイルをろ過したり、ゆずの精油で香りをつけたり、また、コロナ禍でアルコールスプレーや手洗いによって保湿が必要な手先や爪に栄養を与えることができるよう、そして、持ち運びに便利なよう商品設計を行い、ようやく商品化にたどり着きました。

 茶の実の収穫は、大人よりも子どもが上手。もたもたする大人たちの横で、かごいっぱいの実を集め、香りの良いお茶の花を嗅いでいる姿を見ていると、「旅育」としても有用と感じました。そして、収穫し乾燥させた実を搾油したときの、フレッシュな香りと味。その場にいたメンバー全員が思わず驚きの声を上げるほどでした。

「未利用」資源に対して多くの可能性を感じることができ、さらにはできあがった試作品のテクスチャーや保湿効果はとても気持ちの良いもので感動的でした。この商品は、今年12月に流通に乗せるべく、準備を進めています。クラウドファンディングも実施中で、どのようなかたに興味を持っていただけるか、今からドキドキしています。

 量産には向かず、その土地ならではの「ローカル素材」があちこちで消えかかっている今、それを活用した小ロットのものづくりをはじめることで、地域の資源の活性化につながると信じてさまざまな取り組みを行っています。こうした地域の資源活性化にご関心のある組織や企業、学校と一緒に、サスティナブルなものづくりを今後も展開できたらと考えています。