外国人気、飲み方の多様化、ブレンド…
お茶業界に3つの新潮流

 先ほど、お茶を取り巻く環境は厳しいと書きました。しかし、明るいニュースも増えています。

 例えば、リーフ茶の消費量はこれまで16年間、減少傾向でしたが、在宅時間が増えたコロナ禍によって、上昇に転じています。若い世代や健康を意識する層には、「カテキン」や「アントシアニン」といったなじみのある機能性成分(健康維持などの機能的効果が期待される成分)を豊富に含む、水出し緑茶や新しい品種が人気です。

 リーフ茶の輸出も好調で、この10年間で2倍に増加しています。緑茶だけでなく、抹茶やほうじ茶、和紅茶、発酵茶の生産も増加傾向で、こうしたお茶のサブスクリプションサービスも増えており、国外内で日常におけるお茶の存在感が広がっています。ひきたて、いれたての香りや味を楽しめるような、抹茶をたてるマシンやほうじ器などの機器も売上が伸びています。

 日本茶で高い価値を持つとされてきた「一番茶」、その中で圧倒的なシェアを持つ「煎茶」(せん茶)、日本茶の品種の7割以上を占める「やぶきた」、これまではこれらが日本茶の主力でした。

 しかし、従来の価値や基準とは異なるポイントから、3つの新潮流が起こっています。

 ひとつめは、外国での人気の高まりです。緑茶の輸出量は年々増加しており、輸出先は1位の北米と2位の台湾で全体の約6割を占めていますが、一方でドイツやシンガポールなど輸出先は多岐にわたり、海外では高感度な層や、若年層に人気のようです。

 有機JASマーク(農薬や化学肥料などの化学物質に頼らないことを基本として、自然界の力で生産された食品かどうかを登録認証機関が検査し、認証された事業者が貼ることができる)の有無も評価に重要で、とくに残留農薬基準の厳しいEUに向けた輸出には必須ともいえる要件になりつつあります。私も英国滞在中、友人宅で緑茶を出されたり、おみやげとした緑茶から話が盛り上がったりした経験が幾度となくあり、外国においても健康的な飲料として扱われていることを日常で感じました。

 2つめは、飲み方の多様化です。同じ緑茶でも、さまざまな飲み方があります。たとえば、茶葉をほうじて飲むほうじ茶。ほうじ茶の人気は高い傾向にあり、あるメーカーのかたの話によると、粉末のほうじ茶というのは、インバウンドのおみやげとして人気商品の上位とのことです。スターバックスでもほうじ茶ラテは人気商品のひとつですが、以前より、さらにコロナ禍においては、「おうち時間」を豊かにするため、味や香りの良さだけでなく、時間を気にせずに飲めるカフェインの少なさから、幅広い年齢層に好まれ、ほうじ茶の人気は高まっています。

 そして、各地でじわじわと生産が増えているのは日本の紅茶です。クラフトビールほどの生産量はまだありませんが、その地ならではの「和紅茶」や「地紅茶」をあちこちで見かけるようになり、ギフトとしてのニーズも増えているようです。一般的な紅茶とは味や香りがだいぶ異なり、それが非常に新鮮で、近年の海外における和食の人気と相まって、今後、輸出の可能性も高いと感じます。

 3つめは、新しい「合組」(ごうぐみ)です。合組とはブレンドのこと。特徴を変えたり、安定した価格の商品をつくったりするため、味や香り、色、収穫時期の異なる各地の茶葉をブレンドする、これまでも行われてきた手法です。

 しかし、従来と異なるのは、大量の商品をつくるためではなく、シングルオリジンを大切にしながら、少量での合組を行う人たちが、日本各地に増えてきているのです。品種の組み合わせや割合を明示することで、消費者は、自分の好みの品種や配合、産地を見つけることもできます。さらには、ジンジャーやハーブ、スパイス、フルーツを加えたフレーバーティーの登場など、これまでのお茶業界のルールに縛られない飲み方も広がっています。

 このように、これまでの価値や基準とは異なる視点によって新しいマーケットが広がりつつあり、新しい風が吹き始めているのです。