気になったことには徹底的に注意を払う
――弱い人にも孤独な人にも、勘や感性という強みがありますが、意識しているかいないかの違いは大きいです。中野さんの勘の鋭さは、本書にもある寺田倉庫の元オーナー社長との出会いの場面でも感じました。
中野 僕の友人が船のライセンスを取りに行ったとき、隣に座ったのが寺田保信さんだったらしくて、面白い人だったという話を聞いていたんです。
それからしばらくして、車に乗っているとき外を見ていたら、寺田倉庫と書いてあるビルが見えました。もし本人がいたら挨拶だけしようと思って、ちょっと立ち寄ってみました。
倉庫に緑色のジャンパーを着た人がいて、「寺田保信さんはいますか?」と訊ねたら「あ、僕です」と。それが、寺田さんとの出会いだったんです。
――アポなしでふらっと台湾総統府を訪れて、それがきっかけで研修機関の教授職を得たこともあったそうですね。そのような必然とも言える偶然の出逢いが多いのも、中野さんの五感や勘の鋭さによるものです。
中野 僕は身の周りの出来事に対しては、かなり注意深いタイプです。だから不思議なことや気になることがあったら、必ず立ち止まって確認します。
それと物覚えは悪くないタイプなので、何でも一枚の絵のようなビジュアルで覚えているんですね。仕事に関する絵が夢に出てくると無性に気になってしまい、「こういう絵が夢に出てきたんだけど、何の話だっけ? わかる?」と秘書に電話で必ず確認します。
要は、気になったことには徹底的に注意を払うことだと思います。
――電車に乗らずに数時間歩くこともよくあるそうですが、その間は何を考えていることが多いですか。
中野 僕は考えごとが好きなので、3~4時間なんてあっという間に経つんですよ。自分でも何を考えているかわかりませんけれど、何かしら考えているのは確かです。
漠然と仕事のことを考えている気がするけれど、具体的に何をどうしようということは考えません。そんな中で目の前に美味しそうなパン屋があったら入って好きなパンを買って、食べるまでの数分を楽しみます。
そして、お店で面白い売り方をしていたなとか、「これはすごい」と思ったようなことがあれば、いつか仕事にもつながっていく。
わざわざ仕事のことを考えなくても、日常の気になることを記憶して頭で整理しておけば、いずれどこかで仕事に活かされていくんですね。
だから毎日の生活が仕事のようなものですが、常に頭の中を整理していないと必要なタイミングでぱっと出てきません。頭の中を整理する時間は大切です。
そして僕の場合、大事だと思ったことは忘れられなくなるから、無意識のうちに仕事で役立っていることが多いかもしれません。