夫の育児休暇が妻の職場復帰をスムーズにさせる

 育休を取得する本人にとってのメリットはどこにあるだろう。「職場の雰囲気で(育休を)取りづらい」という問題以外にも、男性が家庭の“大黒柱”となっている世帯では、収入減を恐れて、女性だけが産休・育休を取得するケースが多い。育休はたとえ1日のみの取得でも、男女ともに給与の67%が育児休業給付金として雇用保険から支払われ、同時に社会保険料が免除されるので、手取りの収入は給与の8割程度が保証される。それでも、収入減を避けたい世帯は多いようだ。

久我 たしかに、育休期間中の収入は約8割にとどまります。けれども、長いスパンで、世帯の生涯所得を考えてみてはいかがでしょう? 「大卒正社員女性」の生涯所得は、子ども2人を出産した後、育休や時短勤務などを利用して働き続けた場合、2億円を超えます*6 。しかし、出産などで離職して、子育てが落ち着いてからパート勤務などで再び働き始めた場合は6000万円程度にとどまるというデータがあります。つまり、妻が職場復帰しやすいように夫が育休を取得して育児をサポートすれば、一時的な収入は減るかもしれませんが、生涯ベースで考えればプラスになるのです。

*6 久我尚子「大学卒女性の働き方別生涯所得の推計」(ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート2016年11月16日)より

 今年2021年6月に「育児・介護休業法」が改正された。まずは、来年2022年4月から、育休を取得しやすい雇用環境の整備、企業側から該当する社員への周知と意向確認などがすべての企業を対象に義務付けられる。また、同年10月からは、男性版産休といわれる「産後パパ育休(出生時育児休業)」がスタートし、既存の「パパ休暇」に置き換えられる。さらに再来年の2023年になると、従業員1000人以上の大企業には、男性の育休取得率を公表する義務が生じる。この法改正が、すでに上昇傾向を見せている「男性育休」の取得率を押し上げていく可能性は高い。

久我 今回の法改正にあたり、「男性育休」が義務化されるのではないか?という見方もありましたが、義務化までには至りませんでした。男性の育休取得が十分に浸透しておらず、評価や昇格への影響の有無、収入減への不安が払拭されないなかで義務化してしまうと産み控える世帯の出てくる可能性があるので、義務化しなかったことは現実的だと思います。これまでは「1カ月前まで」だった育休の申請期限が「2週間前まで」になったこと、2回に分割して取得できるようになったこと、育休中もある程度の仕事ができるようになったことなど、法改正は全体的に良いバランスに落ち着いたと思います。職場の空気が変わるきっかけになる可能性は大いにあるでしょう。また、67%の育児休業給付金については、100%を目指すという議論もありました。韓国の例を見ても、育休取得率を上げるために給付金をアップすることは効果があるようなので*7 、そこまで踏み込んでもよかったかもしれません。

*7 参考レポート「韓国で男性の育児休業取得率が増加、その理由は?」(ニッセイ基礎研究所/生活研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金明中/2021年8月)