例えば、00年代初頭に捜査した、銀行が暴力団の会長が関与する会社に多額の融資を実行し、回収不能となった特別背任事件があります。この事件では、銀行トップが、暴力団会長と銀座で飲み歩く姿が頻繁に目撃されるほど、癒着していました。

 そのきっかけは何だったのかというと、当時の銀行は大蔵省官僚に「ノーパンしゃぶしゃぶ」などの破廉恥接待を行い、社会的に批判されていましたが、問題の銀行もご多分に漏れず官僚に破廉恥接待を行っていて、その事実をジャーナリストや似非(えせ)右翼につかまれた。銀行トップは、不祥事を表に出したくないばかりに、事件屋や怪しい実業家などの“有力者”に、記事のもみ消しを頼み込む中で、暴力団会長に行きついたのでした。

 普通、銀行の経営者ともなれば、いかに頼み事があったとしても、相手が暴力団だったと分かった時点で席を立つでしょう。しかし、往々にして最初はあくまで暴力団ではない、グレーゾーンの人が出てきます。すると、「本人はヤクザじゃないから、大丈夫か」と油断して、頼み事をしてしまう。

 ところが、後日その人物から酒の席で、「私がお世話になっている会長」や「業界で力のある方」と言われて暴力団を紹介されると、無下に断りにくい。一度頼み事をして、解決してもらっている相手の顔をつぶせないからです。

 企業の経営者は、暴力団と会った時点でもう後戻りはできません。一度会ってしまえば、その席でどういう話をしていようが、世間の印象は悪いわけです。それに、グレーゾーンの人間からすれば、暴力団と引き合わせるのは、相手をカタにはめる、つまり逃げられない状態にするためでもあるのです。実際、私が捜査した銀行経営者は、取り調べで黙秘を貫き、警察の捜査に抵抗していたのです。

不良社員が暴力団に取り込まれて
多額を恐喝される恐れも

――企業恐喝は、どういったきっかけで行われることが多いですか。