かつてのレノボ社内の空気を変革した現会長・楊氏

 柳氏には面識はないが、楊氏とはかなりドラマチックな交際があった。

 2000年、私はテレビ取材班を連れて、北京にオフィスを構えるIT企業十数社を訪問した。中国企業もあれば、外資企業もあったが、レノボを事前取材したとき、同社の広報責任者から暗に金銭的な提供が求められた。当時取材したこの十数社の中で、こうした要求が出されたのはレノボだけだった。言うまでもなく、私は断った。そして取材リストからレノボを消した。

 取材が終わって日本に戻った私は、この問題を日本で発行される中国語新聞で取り上げた。思いもよらないことに、この記事がちょうど日本訪問中のCEOである楊氏の目にとまった。楊氏は、部下に善処しろと指示するのではなく、私の自宅に電話をかけ、自ら事実の調査に乗り出した。

 私から事のいきさつを聞いたのち、楊氏は「私たちは世界一流の企業を目指したいが、残念ながら現段階では、まだ社員の誰もが一流になったとは言えない。しかし、私たちの誠意を信じてください」と述べた。

 中国に戻ってからも楊氏本人は最後まで自らこのクレーム処理に取り組んだ。クレーム処理の結果を知らせる電話の中で、楊氏は、「もし私たちの会社にもう一度機会を与えていただけるなら、ぜひわが社に来てください」と再度の訪問を誘った。それが私とレノボ、そして楊氏本人との長いお付き合いのスタートとなった。

 柳氏から企業経営の権限がバトンタッチされた楊氏は着任早々、新しい企業文化作りに心血を注ぎ始めた。