変化の兆しが見えつつある地方の企業だが…

 政府は、2014年に「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、経済の「東京圏一極集中」を避けるために「地方創生」政策を進めている。「地方創生」は、経済の活性化によって、全国の市町村が地域社会を自律的に持続していくことを目的としたもので、そのためには、地方企業における“女性活躍”が不可欠となる。

 そして、コロナ禍で、東京圏から地方への転出者が増加しているデータもあり(*7)、“地方に住み、地方で働く”選択が増えていく可能性もあるだろう。カギを握るのはテレワークの普及だ。テレワークによって、地方に住みながら「大都市圏の仕事」ができれば、女性の流出が減り、また、地方企業に勤める女性がテレワークで柔軟な働き方ができれば、“女性活躍”も現実化していくにちがいない。少し極端な見通しだが、テレワーカーが町に増えることで、たとえ彼女たちが東京の大企業在籍でも、自ずと町のカルチャーが変わっていくかもしれない。それが「地方創生」の一助となるはずだ。

*7 総務省「住民基本台帳人口移動報告」(2020年~)より

小安 テレワークの普及には私も期待しています。一般的にも、テレワークが普及することによって、女性は働きやすくなるケースが多いと言われています。ただ、実際のテレワーク普及率は東京都23区では50%を超えていますが、地方圏だと25%に届かない(*8)など、東京と地方では明らかな差があります。もちろん、大企業と中小企業によっての違いもありますが、テレワークが企業規模や地域差を超えて普及していくには時間がまだかかるでしょう。テレワークの有無にかかわらず、ライフステージによって「超短時間少日数勤務」のような柔軟な働き方のできる企業が女性の支持を得ていくはずで、同じ地域にある企業でも人気が二分化していくと考えられます。

*8 内閣府「第4回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」より

地方の企業で働く女性たちが、これから“働きがい”を得るために

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、私たちの仕事観を変えつつある。たとえば、テレワークによって、働く時間と場所の制約が減り、満員電車で丸の内のオフィスに向かうといった日常が当たり前ではなくなった。オンライン慣れした学生は、就職活動において、勤務地よりもIT環境を気にする傾向もあるという。就労世代の移行につれて、「“女性活躍”のロールモデルが少なく、アンコンシャスバイアスがあり、女性にとって魅力的な会社が少ない」といった地方企業のイメージも変わっていくかもしれない。「経営者次第」という前提で、小安さんは「 “地方×中小企業”のほうがイノベーティブな事例を生み出せる可能性がある」と明言する。それは、先述した豊岡市の例を見ても明らかだ。

小安 地方の企業が変わっていく兆しは見えています。ただ、すべての企業が等しく変革できるとは思っていません。厳しい言い方かもしれませんが、変革できる企業とできない企業の差が広がるのではないでしょうか。アンコンシャスバイアスを解消し、職場における男女格差をなくせるか、超短時間少日数勤務やテレワークなど、時間と空間を超えた柔軟な働き方を推進できるか……などなど、女性が生き生きと働くことのできる職場のために地方企業が乗り越えるべき課題はたくさんあります。そして、いまは、その“一筋の光”が見えています。個々の企業が突破口を見つければ、状況は変わっていくはず。内閣府のデータにあるように、地方への移住者や、企業のテレワーク拠点の開設が増えています。地方の中小企業こそ、この動きをチャンスととらえ、既存の働き方をアップデートすることが大切でしょう。その可否が、優秀な人を引きつけられるかどうかの分かれ目になると思います。