地方自治体との連携から各企業との協業を展開
インターネットやSNSがこれだけ普及していても、東京などの大都市圏と地方では情報格差が生じやすいとも言われている。たとえば、他者との関わり合いが希薄なコミュニティで生活し続けていると、偏った考え方が蔓延し、強化されるという、ソーシャルメディアでのエコーチェンバー現象(*6)に似た状況に陥りやすい。小安さんは、地方における情報の偏りや大都市圏との格差をどう見ているのだろう。
*6 ソーシャルメディアにおいて、自分と似た興味関心を持つユーザーをフォローする結果、意見をSNSで発信すると自分と似た意見が返ってくるという現象 (総務省ホームページより)
小安 講演会を開くとしても、地方自治体によっては予算の都合で、社会の第一線で活躍する有識者を招けないケースが多々あります。そうしたことで、東京と地方の情報格差が生まれることを避けるために、私はその分野の専門家やジャーナリストなど、広く活躍する方にできるだけ登壇していただくようにしています。
「情報」という観点からもうひとつ気になっているのは、女性の社用パソコンの所有状況です。「経営者や管理職向けのセミナーならオンラインでできるけれど、従業員には1人1台のパソコンを支給していないから、女性向けにオンラインセミナーはできない」と言われてしまうことがあります。
地方における「女性×働く」を推進するプロジェクトを進めるにあたり、小安さんは企業ごとに協力関係を築くよりも、自治体のアドバイザーとして、“女性活躍”の必要性やノウハウを地域全体に伝えるようにしている。地域に変革を起こすために重要なのは、自治体トップや職員の本気度にほかならない。
小安 私が地方の自治体と協業させていただく際には、たいてい、「経済振興課」「産業振興課」「商工課」など、企業とのリレーションを持つ “経済系の部門”とご一緒させていただきます。同時に「男女共同参画課」や「人権課」といった“人権系の部門”とも繋がりを持って、双方部門のハブ的な役割となることにも留意しています。“経済観点での女性活躍”と“人権観点での女性活躍”を並行して進められるかどうかがポイントだと思います。
たとえば、人口約8万人の兵庫県豊岡市は、2018年から「ワークイノベーションを推進し、女性が働きたい事業所を増やし、女性に選ばれるまちを目指す」という理念を掲げて、“女性活躍”に向けて動き始めた。
小安 豊岡市では、10年後のKPIとして「ありたい姿に向かって、生き生きと働く女性が増えている」ことを設定しました。市の基本方針である「多様性を受け入れ、支え合うリベラルなまちづくり」という考えに基づき、すべての女性が管理職になることを目指すのではなく、一人ひとりが望む働きやすさを実現しよう、ということにしたのです。まず、目標を実現させるために、市内の経営者有志が中心になって「ワークイノベーション推進会議」を立ち上げられました。スタート時は地元企業16社のみの参加だったのですが、現在(2021年12月)は60社に増えています。