コロナ禍以前の世界にはもう戻らない
出社義務のある企業は不利に

――デジタル化の加速がプレッシャーを招いているのですね。あなたは著書『マッキンゼー流 最高の社風のつくり方』で、仕事の「トータルモチベーション」(総合的動機)を科学的に分析しています。それによると、「感情的圧力」はパフォーマンスを低下させるそうですね。

ドシ そのとおりです。同書の主要なテーマの1つは、従業員のモチベーションがいかにパフォーマンスに影響を与えるか、優れたモチベーションとはどのようなものかを解き明かすことでした。

 同書で示したモチベーションは6つあります。「Play」(楽しさ)、「Purpose」(目的)、「Potential」(可能性)という3つの「直接的動機」と、「Emotional Pressure」(感情的圧力)、「Economic Pressure」(経済的圧力)、「Inertia」(惰性)という3つの「間接的動機」です。直接的動機はパフォーマンスを高め、間接的動機はパフォーマンスを低下させます。

「オンラインですぐに反応しなければ、周りからダメだとみなされ、困ったことになる。すべての会議を網羅できない。効果的な問題解決を提示できない。常にオンライン通知をチェックしているせいで、会議に集中できない」――。

 人は、こういったプレッシャーを感じると、本領を発揮できません。直接的動機、すなわち「楽しさ」「目的」「可能性」が希薄になる一方で、間接的動機、すなわち「感情的圧力」「経済的圧力」「惰性」を強く感じるようになり、やる気が失せてしまいます。

 そうした状況は、組織にとって最大のコストの1つである従業員のバーンアウトを招き、組織は大きなツケを払うことになります。幹部の人たちには、ぜひ拙著『マッキンゼー流 最高の社風のつくり方』を読んでもらいたいと思います。こうした「モチベーションとは何か」を理解せずに、会社を率いることなどできません。

――パンデミック以降、あなたの会社でも、テックと従業員のウェルビーイングに関してアドバイスを求めるクライアント企業は増えましたか?

ドシ もちろんです。現在、クライアント企業の大半が、テックとウェルビーイングなどの問題解決を求めています。コロナ禍以前から、企業は、テックと従業員のモチベーション、パフォーマンスなどの問題を抱えていました。そもそも、2015年1月にベガ・ファクターを立ち上げたのは、組織が抱える、こうした問題を解決したかったからです。

 そして、パンデミックが起こり、その動向が加速しました。企業が(テックと従業員のモチベーション、ウェルビーイングなどの)問題解決の必要性を認識するペースに拍車がかかったのです。

 私たちの会社は、幹部を対象にしたデジタル研修などを提供するコンサルティング部門「ベガ」と、テック部門「ファクター」の2部門から成っています。ベガでは、事業プロセスや戦略、パフォーマンス、モチベーションの管理とスキル開発を一体型プラットフォームに落とし込み、最新のテックで職場のデジタル化を支援しています。

 クライアント企業の大半は急成長中の新興テック系スタートアップであり、その多くが今後も完全出社体制に戻すつもりはなく、週何日かのリモートワークを続ける見通しです。パンデミックで世界が永遠に変わったことを認識しているからです。

 彼らはパフォーマンスの向上や仕事のモチベーションを犠牲にすることなく、リモートワークの便益を享受する道を探っています。そこで私たちは、プレッシャーを与えずに生産性の問題を解決するためのテックの使い方や、効果的な会議を数多くこなすための方策、リモートによる問題解決方法などを指南しています。

 コロナ禍以前の世界には、もう戻らないと思います。多くの人々がリモートワークに慣れ親しんでいる一方、米国では(空前の離職時代を迎え)人材獲得合戦が激化しています。

 出社を義務づければ、有能な人材の獲得に不利です。しかし出社義務がなければ、世界中から優れた人材を採用できるため、生産性や従業員のモチベーションを高める追い風になり、必然的に(出社義務のある企業より)パフォーマンスがはるかに向上します。

 多くの企業が出社義務を課さない体制を続ければ、人材獲得で後れを取らないよう、いずれは、どの企業もそうしたやり方に切り替えざるを得なくなるでしょう。