BEVは海外市場向け

 発表のインパクトが大きかったので惑わされがちだが、内容を精査すると本質はこれまでの上方修正であることがわかる。まず、トヨタがBEVに舵を切ったのは欧米市場が当面の狙いだ。お披露目された新型BEVは、日本よりも北米やEUなど海外市場を意識している。コンパクトカーのラインナップもあり、SUVなど全世界共通での売れ筋車種も目立つが、スポーツクーペ、大型クロスオーバー、ピックアップトラック、デリバリーバンなどは日本向けには見えない。

 黄色いナンバープレート(ダミー)がついた軽自動車サイズのBEVもあるが、よく見ると左ハンドル仕様だ。シートも左側しか見えない。フロントにQRコードが見えるので、レベル4、5自動運転カーという可能性も残るが、シートがオペレータ用ならEUまたは北米仕様だろう。国内なら軽自動車枠になるというだけで、EUで注目されているL7eカテゴリーの小型EVとして開発されている可能性がある。

 350万台という数字は、トヨタの全販売台数の35%を占める大きなものだが、すでにHVを含む電動車枠では500万台規模の計画を発表しており、EVの構成比率が変わっただけという見方も可能だ。また350万台のうち100万台はレクサスブランドとしている。レクサスは欧米中において100%BEVブランドになる予定だ。

 先行する欧米市場をメインにBEVラインナップを揃える。コストを吸収しやすいプレミアムカーやレクサスブランドを中心とした戦略だ。日本など電動化が遅れている市場に対しては全方位を繋ぎ戦略とする。こう考えるとトヨタらしい地に足の着いた計画と言える。

気になる車両やバッテリーの供給元

 ではトヨタの戦略に盲点はないのだろうか。トヨタによれば、16台の車両はすべて数年以内に市場に投入されるという。事実だとすれば業界としてはかなり異例の事態といえる。そもそもこれだけの大量のモデルを同時に発表することは、これまでの常識ではありえない。

 通常の車両開発サイクルは4年から5年と言われている。スバルとの共同開発bZ4X・ソルテラは22年半ばに発売される予定だが、それ以外のモデルも数年以内に市場にでてくると章男社長は明言している。そうなると商品開発は2019年前後から始まっていたことになるが、当時から10車種以上の開発を秘密裡に同時進行させていたのだろうか。

 トヨタ規模と体制ならそれも不可能ではないが、ここにある興味深い分析がある。今回発表されたBEVの一部はBYDとトヨタのJVによって開発・製造されると、北米のアナリストがTwitterに投稿したものだ。この分析では、トヨタが発表したBEVのいくつかはBYD Autoのe-platform3.0を利用し、BYDのLFP系のブレードバッテリーを利用する可能性があるとしている。

https://twitter.com/bridgemccarthy_/status/1470847119581925379

 BYDは、すでに江蘇州や深圳に大規模なバッテリー工場を展開している。2021年3月には欧州でのバッテリー工場建設についてアナウンスするなど、ここ1、2年の事業拡大が目立つ。9月にはBYD Autoが「Tang SUV」(BEV)をノルウェー市場に投入し100万台規模の乗用車メーカーを目指す発表イベントを開催している。BYDの強みは深セン発のバッテリーベンチャーであり、最先端技術と強力な供給体制を持つ点だ。BYDのグローバル戦略の中に既存メーカーへのOEM供給が含まれていても不思議はない。