リモートワークの普及など働き方の変化も含めて、コロナ禍をきっかけに始まった変化は、決して突然起こったものではないからです。日本の多くの企業がここ数十年の間、変えたくても変えられなかった働き方や組織に関するさまざまな構造的問題が、コロナ禍によって一気に喫緊(きっきん)の課題となって浮上したに過ぎません。コロナ禍で新たな変化が起きたのではなく、変化のスピードが10倍速になったのです。

 会社のあり方、キャリア自律、ビジネスモデルの転換、ワークスタイルの変化といった一連のシフトチェンジが一気に押し寄せてきているなかで、旧態依然とした価値観から抜け出せないミドル以降の世代にはもう卒業してもらったほうがいいだろう――。

 これが今の会社の考え方です。変化の狭間でなかなか大なたを振るえずにいたところにコロナ禍による経営環境の悪化という外圧が加わった。こうなると日本企業の動きは速いです。「まだウチの会社は大丈夫」と思っていても、ゆでガエル状態のミドルを対象としたリストラの波はどんどん広がっていきます。

 また、最近では50代の社員を対象に「セカンドキャリア研修」を実施する企業が増えています。表向きは、会社内だけでキャリアを考えるのではなく、転職や独立といった選択肢にも目を向け、人生100年時代の後半戦をより豊かに生きていこうという内容の研修ですが、その裏側には、前述の早期退職・希望退職募集へと通じるリストラへの意思がある企業も少なくないでしょう。

 もちろん、会社に縛られず、自分自身がオーナーシップを握ってキャリアプランを描くことは大切なことです。しかし、暴力的な環境変化のなかで生き残ろうと危機感を高める会社の本音は、「会社の変化に合わせて変われない人は早く卒業してください」というところもありますから、セカンドキャリア支援と言ってもシビアです。現状維持で逃げ切りたいという甘えは許されない時代になってきているのです。

 経験を積んできた社員側も会社の考えていることはわかっていますから、なかなか前向きな気持ちで受講できません。研修を受ければ受けるほど、みんな元気をなくしていくという笑えない事態も起こっています。住宅ローンの残債や子どもの教育費、老後のお金のやりくりに重きを置いたセカンドキャリア研修の場合、別名「黄昏(たそがれ)研修」と呼ばれる所以(ゆえん)です。