「ここで買わなきゃいけない症候群」で
無理をした住宅購入には悲劇が待っている
東京大学経済学部卒。ボストンコンサルティンググループなどを経て三井不動産に勤務。J-REIT(不動産投資信託)執行役員、運用会社代表取締役を経て独立。現在はオラガ総研株式会社代表取締役としてホテルなどの不動産プロデュース業を展開。また全国渡り鳥生活倶楽部株式会社を設立。代表取締役を兼務。講演活動に加え多数の著書を執筆している。祥伝社新書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題』『不動産で知る日本のこれから』『不動産激変』などがある。
牧野 平均給与433万円の人達は、冷たい言い方だけど新築マンションは無理なんです。その無理を承知で買う人達には、悲劇があると思っています。今、住宅ローンの延滞者は8万人ぐらいですか。今はバイアスがかかっていて「コロナ禍が過ぎ去れば大丈夫」って何となく思いがちなんだけど、この影響は後からくるんです。みんな一生懸命我慢して、ローンが払えなくなって延滞、破綻と…。
日下部 ちょうど最近、ドキュメンタリーで見ましたよ。コロナ禍で固定給以外入らなくなって、生活費だけで精一杯になってしまったご家庭の話です。住宅ローンのためにお父さんがアルバイトを掛け持ちして1日3時間睡眠くらいで頑張ったんだけど、とうとう身体を壊して入院してしまったという。
世の中がそんな状況にもかかわらず、金利が安い、住宅ローン減税もあるし審査に通るなら大丈夫と、今もまさにボーナスや残業代に期待して駆け込んで買う方もいらっしゃるんでしょうね。
牧野 それ絶対やってはいけないんだけど、やっぱりやろうとするんですよね。
日下部 いつも不思議に思うんです。
牧野 「ここで買わなきゃいけない症候群」が邪魔をしてしまうんです。人間は多かれ少なかれ、見栄を張りたいところってあるじゃないですか。そうするとつい背伸びをして、「何とかなるんじゃない?」と、都合の良いシナリオを頭の中で描いてしまうんです。
日本が経済成長をしていた頃はそれでも何とかなりました。でも、世帯収入が下がりはじめてから四半世紀も経っているのに、一部の方はその現実を見ないで「ここで買わなきゃいけない!」と行動に出てしまう。当然、売る方も売りたいから一生懸命なんだけど、悲惨な事例が出てきているのは社会的にみると問題ですよね。