年間1000人以上が
尊厳死を選択するスイス

 時をほぼ同じくして、オーストラリアの最高齢医師で環境植物学者のデービッド・グドール氏(104歳)が、自らの命を絶つためスイスへ旅立ったというニュースが飛び込んできた。

 英BBC放送によれば、同氏は私の知人のように不治の病に侵されていたわけではない。だが、高齢で自立生活が困難で生活の質(QOL: quality of life)が著しく低下したことから、自死の道を選んだという。いわゆる「安楽死(euthanasia)」だ。

「こんな年に達してしまい残念でならない。私は幸せではない。死にたい。悲しいのは(オーストラリアで)そうさせてもらえないことだ」と同氏は語っていた。「私が思うに、私のように年老いた者には、ほう助自殺の権利も含めた完全なる市民権が付与されるべきだ」というのが同氏の持論だった。

 オーストラリアのビクトリア(Victoria)州では2017年、同国で初めて安楽死の合法化法案が可決されたが、対象者は健全な精神状態を持つ末期患者で余命6カ月以内に限られている。グドール氏は対象外だったため、スイスのバーゼル(Basel)にある自殺ほう助機関に申し込んだところ、優先予約が認められたそうだ。

 1942年に世界でいち早く自殺ほう助を合法化したスイスでは年間1000人以上が「尊厳死」を選択している。その後、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、米国5州、カナダ・ケベック州、コロンビア、韓国などでも認められるようになった。尊厳死をサポートする組織がいくつも存在している。

 どちらにせよ、命に関わることだ。制度化するのは容易ではない。自殺ほう助は殺人と表裏一体だからだ。そのため、日本を含めた大半の国々ではいまだに自殺ほう助は違法行為とみなされている。