岸田文雄首相は自民党政調会長だった2017年8月、テレビ朝日の番組で「安倍首相はあえて言えばタカ派なんでしょう。私はリベラル、ハト派」と言ったことがある。

 その心情はおそらく事実だろうが、皮肉にも岸田氏は大転換を行った首相として歴史に名を止めるだろう。

「台湾有事は日本有事」安倍発言
戦争に巻き込まれる可能性を肯定

 防衛力増強の背景には、中国の軍事、経済的な急速な台頭を脅威と見る米国と中国の対立激化の主戦場が、台湾海峡や南シナ海など日本周辺になりそうなことがある。

 安倍晋三元首相は、昨年12月1日台湾のシンポジウムにオンラインで参加。「台湾有事は日本有事」と述べた。かつて野党は「日米安保条約のために、日本は戦争に巻き込まれる」と批判していたが、安倍氏はそれを肯定する形となった。

 実際、防衛省・自衛隊は、台湾の独立か統一かを巡って、米中が武力衝突、日本が参戦することを想定して共同訓練や共同作戦計画立案を進め「敵基地攻撃」などの装備調達も図っている。

 だがメディアが「抑止力向上」を名目にした防衛費の増強や、米国、オーストラリアとの同盟関係強化を批判することは少ない。戦前に「暴支膺懲」(横暴な支那を懲らしめよう)が唱えられ、国民一致の「翼賛体制」で戦争に突き進んだ状況の始まりはこうだったのではないか、と思わせる。

 こうした軍事力強化や戦争も辞さないという決意に相手がたじろぎ、譲歩すれば成功だが、米中のせめぎ合いは不良少年の「チキンゲーム」(2台の車が別方向から疾走、避けた方は臆病者となる)に似ている。抑止戦略を取るには衝突の危険を考えねばならない。

 もし台湾が公然と独立を掲げ、それを座視できない中国が台湾に航空機やミサイルによる攻撃をしたり、台湾周辺の海上封鎖を行って石油や食料の輸入を阻止したり、ついには上陸作戦で制圧しようとするような場合、米国が台湾支援に出兵する公算は大きい。

 その際には、米軍の作戦の拠点は沖縄の嘉手納空軍基地や岩国の海兵隊航空基地、三沢の空軍基地、横須賀、佐世保の軍港、在日米軍司令部がある横田空軍基地となるだろう。

 日米安保条約に伴う交換公文では、米軍の戦闘作戦行動の基地としての施設、区域の使用は日本政府との事前協議の主題とすることになっている。

 だが日本側がこの場合にNOと言うことは考えにくく、積極的に協力するだろう。

 もし戦争となれば、日本は中国の敵となるから、中国がそれらの基地に対し中射程弾道ミサイルや巡航ミサイルなどによる攻撃をするだろう。日本の指揮中枢である防衛省、首相官邸なども標的にするかもしれない。

通常弾頭ミサイルでの攻防でも
自衛官を入れると相当の死者数

 ただし戦争となっても、核弾頭を使えば、米中が互いにICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射することになり、共倒れになるから、それはまずなく、通常(火薬)弾頭のミサイルなどでの攻防になる。