その効果は一般に思われているほど高くはなく、第2次大戦の末期、ドイツは1トン爆弾を積んだ弾道ミサイルV2号(射程320キロ)を使用、ロンドンに517発が落下したが、死者は2700人、1発当たり5.2人だった。

 私は1991年の湾岸戦争中のサウジアラビアや99年のコソボ紛争で米軍などNATO軍機の連日の爆撃と巡航ミサイル攻撃を受けているセルビアのベオグラードにいたことがあるが、通常弾頭ミサイルによる攻撃の効果は有人機による爆撃よりは低いと感じた。

 湾岸戦争時は、首都リヤドでサウジアラビア国防・航空省の向かい側のホテルに泊まっていたが、イラク軍は、この戦争中、ソ連製の弾道ミサイル「スカッドB」を改装した「アル・フセイン」88発を発射、リヤドにも13発が飛来した。

 それが近くのビルに当たって一部が崩壊したこともあったが、住民はすぐ慣れ、ミサイル発射の警報が鳴り響いても宝飾店ではチャドルをまとったご婦人たちがアクセサリーを選び続けているのには苦笑した。

 中国が現在持つ通常弾頭の中距離弾道ミサイルは約90発、巡航ミサイルは200ないし500発と推定されている。

 仮に「台湾有事」となれば、台湾には短距離ミサイルが届くから、中射程の弾道ミサイルを日本に向けて発射、また巡航ミサイルの半数も日本を狙う、と仮定すると、計約300発が日本を襲うことになる。

 1発5人の死者が出るとすれば、死者数は1500人、負傷者はその2倍程度か、と推計される。

 第2次大戦後77年も平和を享受してきた日本人にとっては大変な事態だが、米英軍のイラク侵攻による民間人の死者約11万人、アフガニスタン侵攻では約19万人、ベトナム戦争では米国とベトナム双方で戦死者140万人、民間人死者は約460万人に及んだ。

 それらと比較すれば、人的損害は軽微とも言えよう。

 ただ、これは日本本土での損害であり、米海軍と共同し、護衛や給油などに当たる自衛艦が中国の航空機が発射するミサイルで撃沈されたり米軍と共に地上戦に陸上自衛隊が参加していれば、自衛官に相当の死傷者が出ることは避けがたい。

経済的打撃は極めて大きい
輸出の27%、輸入の26%は中国

 それだけでなく、米中戦争が起き日本が巻き込まれた場合には日本と中国の貿易、海運は途絶するから経済的打撃は極めて大きい。

 日本の輸出全体の中で22.1%は中国向けで、香港向けの5.0%を合わせると計27.1%になる。米国向けは18.4%だ。米国の1.5倍の市場を失うだけでなく、中国に進出した日本企業は敵対関係になれば接収される。