もし日本が尖閣問題での中国の領海侵犯を理由に「中国は日中共同声明や日中平和友好条約に違反している」として条約を破棄、台湾を独立国として承認した上で参戦すれば、憲法98条に触れることは避けられるだろう。

 だが戦争になってしまえば、人的被害や経済への打撃を受けるのは同じだ。

「日中共同宣言が調印された当時は平和で米中の対立や、台湾と中国の戦争は考えられなかったが、今では事情が変わった」と言う人もいる。

 だがベトナム戦争が終わったのは73年1月で、米国は和平交渉中も北ベトナム爆撃を何度も停止しては再開し、72年12月18日には最後の大爆撃を開始した。

 中国は72年のニクソン米大統領の訪中で米国との和解に向かっていたが、北ベトナムに年間70万トン以上の米や大量の歩兵火器を供与、高射2個師団を派遣して累計1000機以上の米軍機を撃墜しており、72年9月には戦闘を続けていた。

 台湾に対しても、中国は58年から68年まで金門、馬祖島の砲撃を続けており、台湾も応戦していた。毛沢東・蒋介石の両雄は72年当時は存命で、蒋介石は中国本土への上陸作戦で権力奪回を目指していたから、今よりも戦雲が濃かった。

軍事的衝突の回避では
米中首脳の「本音」は一致

 幸い現在の米、中双方の指導者は軍事的衝突を避けようとしている。

 昨年11月16日のバイデン大統領と習近平国家主席の3時間半にわたるオンライン会談で、バイデン氏は米国が「一つの中国政策」を維持すると語り、「一方的な現状変更」をしないことが必要だと述べた。

 中国の台湾武力統一を防ぐとともに、米国が台湾の独立を支持しないことを意味したものといえよう。

 これに対し習氏は、「台湾独立勢力が挑発を重ねて一線を越えれば断固たる措置を取らねばならない」と述べた。

 一見脅しのようだが、現在は一線を越えてないから武力行使はしないが、これ以上、挑発はしないでくれと、中国側も現状維持の意向のあることを間接話法で示したことになる。

 両国の指導者は戦争をしたくはないが、国民に弱腰と言われたくないからこうした言い方をしたのだろう。