セブン&アイ・ホールディングスが2023年2月にも、グループ横断のECサイト「オムニ7」を閉じる方針を固めたことがダイヤモンド編集部の取材で分かった。特集『セブンDX敗戦』(全15回)の#11では、セブン&アイがオムニ7閉鎖を決断した理由に加え、DX戦略の混迷で生じた撤退を巡る大騒動について明らかにする。(ダイヤモンド編集部編集委員 名古屋和希)
>>あなたの会社の「DX問題」取材します。情報提供はこちらまで
diamondweekly@diamond.co.jp
旧体制の肝いり「オムニ7」
売り上げ伸び悩みEC市場で埋没
カリスマの“遺産”はついに解体へ――。
セブン&アイ・ホールディングスが2023年2月にも、グループ横断のECサイト「オムニ7」を閉鎖する方針を固めたことがダイヤモンド編集部の取材で分かった
オムニ7はセブン&アイグループのスーパーであるイトーヨーカ堂や百貨店のそごう・西武、専門店のロフトなどの商品をインターネットで注文・購入できるサービスだ。
購入した商品は自宅や全国約2万店のセブン-イレブンで受け取れるほか、受け取ったセブン-イレブン店舗で商品を無料で返品することもできる(下図参照)。
オムニ7は15年11月、セブン&アイの鈴木敏文前会長と息子で当時、最高情報責任者(CIO)だった鈴木康弘氏の肝いりで立ち上げられた。
オープン直後の15年度はEC経由での購入と、ネットで検索後の店舗での購入を合わせた売上高は1418億円に上った。
当初はこれを18年度に約7倍の1兆円に伸ばす計画だった。取扱商品数も300万アイテムから3年間で2倍の600万アイテムに増やす強気の目標を掲げていた。
しかし、井阪隆一社長による新体制が発足した16年、鈴木敏文氏と康弘氏が相次いでグループを去り、推進役が不在となった。
楽天グループやアマゾンジャパンといった大手がEC市場で圧倒的な存在感を築き上げたのに対し、オムニ7は完全に埋没した。
セブン&アイはオムニ7を23年2月に閉鎖する方針だが、システム移行の進捗などによってはスケジュールが後ろ倒しになる可能性はある。
撤退の一つ目の理由は業績の低迷だ。直近の21年度の売上高は前年度比0.3%増の1044億円。オープン当初は10%近い高い成長率を示したものの、その後売上高は1000億円前後にとどまり伸び悩んでいた。19年度には2桁パーセントのマイナス成長を記録したこともあった。
もう一つの理由が、経営陣を含む社内の権力争いである。オムニ7は鈴木敏文氏、康弘氏の親子によって進められたプロジェクトだった。
井阪氏は社長就任直前、「週刊ダイヤモンド」の特集「カリスマ退場 流通帝国はどこへ向かうのか」(16年5月14日号)のインタビューで、「(オムニ7は)今後もしっかりやっていくべきだ」と語っていた。
しかし実際は、前体制の“象徴”ともいえるオムニ7をてこ入れすることはなかった。
グループ内でオムニ7は“負の遺産”と呼ばれ、閉鎖は暗黙の了解となっていた。
すでにグループのイトーヨーカドーが、自前でネットスーパー用の大型物流拠点の整備に乗り出したほか、セブン-イレブンもスマートフォンで注文・宅配するネットコンビニに取り組んでいる。グループ横断をコンセプトとしたオムニ7は形骸化が進んでいる。
実は本来、オムニ7はもっと早く「手じまい」される予定だった。しかし、グループのDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の混迷による騒動が撤退を遅らせ、結果的にオムニ7を“延命”させていたことが関係者への取材で判明した。
引き金となったのは、大手ITベンダーが絡んだ“失策”である。次ページからはオムニ7の閉鎖を巡る大騒動と“泥沼”撤退戦の舞台裏を明らかにする。