今夏、大衆薬の販売を巡るあるルールが約60年ぶりに見直された。コンビニエンスストア業界が強い要望を続けてきたその見直しは、さらなる規制緩和の「呼び水」となる可能性もある。特集『薬剤師 31万人 薬局6万店の大淘汰』(全13 回)の#11 では、薬の販売ルール激変が登録販売者や薬剤師に与える影響を探った。(ダイヤモンド編集部編集委員 名古屋和希)
約60年ぶりのルール撤廃
登録販売者が“失業”?
「開店している時間のうち半分はいなければならない、というのは厚労省の思い込みだ」
2020年10月、政府の規制改革推進会議の医療・介護ワーキンググループの会合。当時の行政改革担当相の河野太郎氏はそう断じ、あるルールの“不要論”を主張した。
「剛腕大臣」のやり玉に挙げられたのは、薬の業界で「2分の1ルール」と呼ばれるものだ。
1964年に厚生労働省の省令で定められたこのルールは、「大衆薬を販売するには店舗の営業時間のうち半分以上は薬剤師や登録販売者が常駐しなければならない」としている。
例えば、10時間営業のドラッグストアでは5時間以上は薬剤師や登録販売者が勤務する必要がある。
このルールの影響を大きく受けてきたのが、コンビニエンスストアだ。コンビニ各社は大衆薬を取り扱いたくても、24時間営業の場合は1日に12時間以上、登録販売者らを確保しなければならない。
少ない従業員によるオペレーションが特徴のコンビニで、大衆薬販売を実質的に不可能にするルールだったのだ。
実際、全国に5万7000店も存在するコンビニのうち、大衆薬を販売する店舗はわずか300店強。比率は1%にも満たない。
コンビニ業界は長くこのルールの緩和を政府に求めてきた。
一方、登録販売者の職能団体である日本医薬品登録販売者協会(日登協)は、「ルールを撤廃すれば、登録販売者が必要とされる場面が減ってしまう」などと反対の論陣を張ってきた。
登録販売者は09年の改正薬事法(現薬機法)で新たに設けられた専門資格で、ドラッグストアや薬局などで一般用医薬品を販売できる。18年度末の登録販売者の数は20万人を超える。
日登協は、コンビニなどが登録販売者の配置を減らせるようになることで起きかねない「失業」を恐れたわけだ。
こうした“膠着状態”を裁定したのが、冒頭の河野氏の鶴の一声だった。半世紀以上も続いてきた2分の1ルールは、今年8月にあっけなく撤廃された。
「大衆薬を取り扱う店を増やし、消費者の利便性を高めていきたい」。長く規制緩和を政府に要望してきたコンビニ大手、ローソンの犬塚毅理事執行役員はそう話す。
今回、2分の1ルールが撤廃されたことで、日登協が恐れるのが、登録販売者を巡る規制の“なし崩し”的な緩和だ。