“自分の優秀さ”は捨て、部下の優秀さを引き出すことを目指そう

――リーダーになった人の中には、優秀で仕事ができるからこそリーダーを任されている人が多いわけで、部下が自分の期待するような成果を出せないと、歯がゆく感じてしまうのかもしれませんね。

浅井 チームにおいて、リーダーは自分の優秀さをひけらかすためではなく、部下の優秀さを引き出し、自律させるために存在するわけですから、むしろ自分の優秀さなんてかなぐり捨てたほうがいいんです。部下がついていきたいと思うのは、ただ優秀、それだけの人ではなく、自分のことを認め、頼ってくれるリーダーです。なので、部下を自律させるためにリーダーは“意図して”部下に頼ったり、甘えたりしたほうがいい。

 多くのリーダーは、部下に対して「困ったことがあったら相談に来い」というスタンスをとっているでしょう。ただ、部下のほうは遠慮したり、自分の不甲斐ない部分を見せたくないと考えたりするので、そんなに簡単に上司に対して正直になれません。部下の本音は厚いベールに覆われて、なかなか表に出てこないものです。

 それでは、正直に相談に来てもらえる関係性を作り、部下の本音を引き出すためにはどうすればいいか。最も効果的なのは、先にリーダーのほうから部下を頼ることです。日常的に「わからないから、教えてくれる?」「これってどういうことだと思う?」などと部下に相談し、部下の意見を参考にする態度を示せば、部下は次第に本音を言いやすくなるでしょう。なめられそうだと感じるかもしれませんが、むしろ「このリーダー、自分を信頼して頼りにしてくれている。期待に応えて頑張ろう」と部下に思わせることができたら、しめたものです。

 実際、部下を頼れるシーンはたくさんあると思うんです。たとえばZ世代の若手はデジタルネイティブであり、往々にしてリーダー世代に蓄積されていない知見を持っている。デジタル関係でわからないことがあるときなどは、そんな彼らに素直に教えを乞えばいいですよね。

――浅井さんご自身も、会社員時代は部下に頼ることを心がけていましたか?

浅井 もちろんです。リーダーが部下に頼らず、一人で問題を抱え込んでしまうと、何もかもが後手に回ってしまうので、自分の不得手なことは部下に積極的に頼るようにしていました。そういう風通しがいい環境だと、上司と部下とで言いたいことが言い合えるんですよ。

 ただ、頼るという行為をはき違えないようにすることも、忘れずにいたいですね。部下に頼る=部下に丸投げして自分はラクをする、という意味ではありません。部下の意見を聞くとき、リーダーはまったくのノープランで聞くのではなく、あくまで胸の内に自分なりの答えも準備したうえで聞く。部下の答えが自分の考えと乖離していても「貴重な意見をありがとう!参考になったよ」と相手を受け止める。それが、“意図して”甘える・頼るということです。

 リーダーからすると、自分で考えたほうが早くて正しいことのほうが圧倒的に多いでしょうから、いちいちこんなことをするなんて、まどろっこしく感じると思います。それでも、自分の考えをあえて飲み込み、意図して部下に頼って、考えてもらう。日常的にこの手間をかけていると、部下は自然と主体的に考える習慣がつきます。そのうちに、リーダーの頭の中にあった答えより、よいアイディアを提案してくれる日も来るでしょう。つまるところ、リーダーが意図して頼っていくことで、部下の成長を促せるわけです。