リーダーの努力で成功の循環モデルは自走し始める

――「チームを成功に導く 成功の循環モデル」では、「思考の質」の先に「行動の質」がありました。これは、チームのメンバーが使命感を持つようになると、自発的・積極的な行動によって、その先の「結果の質」も向上していく、ということでしょうか?

浅井 はい。一部の優秀な人間だけが成果を上げるのではなく、チーム全体で継続して結果が得られる形に「結果の質」が変わってきます。結果が向上すれば、さらにチームは結束して「関係性の質」もよくなる、という具合に好循環が続いていきます。

 ただ、このサイクルがうまい具合に自走するようになるには、大前提としての関係性の質、いわゆる信頼関係の土台を基に、リーダー一人で組織を動かそうと考えずに、信頼できる腹心とタッグを組んでメンバーを巻き込み、効果的な組織運営が実践できるさまざまなマネジメントのツールや体制を整えないとその道のりが遠くなります。

 そのためには、リーダーは部下の意見を傾聴し、行動に移させ、ときに誠実にアドバイスし、タイムリーにケアする。そして、部下の自律、チームの自走の程度によって関わりの程度を緩めていく。一度自走しだすとラクですが、それまでの間はリーダーが自律の道筋を示してあげることが重要です。

 たとえば、チーム全体で業務の進捗について共有するためのワークシートだとか、ミーティングでのやりとりを記録して、次に生かせているかどうかを確認するためのシステムだとか。人材育成の経過がわかるシートや、業務プロセスのセルフマネジメント表なんかもあったほうがいい。いずれも簡単なもので構わないのですが、経過を可視化できるツールは必要でしょう。さらには、リーダーがメンバーとどういう関わりをしているかをさらにその上司がみられるような、包括的に人を育てる体制を会社ぐるみで作っていけたら自走までの道筋がより早くなります。

――たしかに、そこまでいくと会社ぐるみでの大きな変革が必要になりますね。会社としては、リーダーたちを支えるために、どのような取り組みや支援を行うべきでしょうか?

浅井 ツールや体制を一から整えるのは、組織全体の変革にも関わる大仕事ですが、これをしないとリーダーの負荷が過剰になり、なかなか部下を育てるところまで手が回りません。リーダーが少し荷物を降ろして、部下をうまく頼れるようにするためにも、ツールや体制の整備による人材育成の“仕組み化”が必要でしょう。

 仕組み化によって負担が減れば、その場限りの対処療法に終始しがちだったリーダーたちが本質的な課題に本腰を入れられるなど、ほんとうに重要な仕事に時間をさけるようになります。そして、さらに上のリーダーを目指せる、つまり、リーダー自身の成長にもつなげることができます。加えて、リーダー自身の成長という意味では、会社として「越境学習」などを取り入れてみるのもいいかもしれません。

 今はグローバルな戦いで勝ち残らないと、会社の存続さえも危うくなりかねない時代で、なおかつコロナ禍を背景にDX化が進み、ビジネスの現場は大きく変わっています。そんななか、新しい価値観を持って会社に貢献できる創造力を養うには、似たような価値観の人のみで固まっていては固定観念の壁が立ち塞がって新しい価値を創造できなくなります。固定観念に凝り固まらないように越境し、異業種の人や組織、文化に触れる――“異質”と交わることが必要でしょう。

 このコロナ禍で不便を強いられることは多いですが、オンラインで越境し、異質と交わることが容易になったのは、大きなメリットの一つです。オンラインなら、世界の英知とダイレクトにつながることができます。コロナ禍という環境をむしろチャンスと捉え、組織的に文明の利器をおおいに活用して、人が、そしてチーム全体が成長できる環境を積極的に整えてあげることが重要です。人類が生き残るために進むべき最も崇高な道は、「相互協力」です。各々の大切な人生の多くの時間を共に過ごし、同じ使命を持って組織に集うメンバー同士が互いに助け合って、未来の道筋をしっかり描いていきましょう。

今回お話を伺った浅井さんは、JT時代に「まず、自分にできることを一生懸命やる」「部下を信頼し、頼る」というシンプルな信条の下、部下とともに汗をかいて信頼を勝ち取り、リーダーとしてチームをまとめ上げながら、さまざまな営業所の成績を押し上げてきました。浅井さんのマネジメント手法はただの理論ではなく、すべて実践に裏打ちされたものであり、さらには実績も上げています。だからこそ、説得力があるのだと感じました。また、浅井さんの説くリーダーのあるべき姿やチームビルディングの考え方は、コロナ禍であろうとなかろうと、普遍的に生かせるものであることが明確になっています。ニューノーマルの波が押し寄せる中で、マネジメントの難しさを痛感しているビジネスパーソンに、そんな浅井さんのアドバイスが届けば幸いです。