ほめることの効果が実験で明らかに

武器としての組織心理学Photo:Adobe Stock

 ほめることは本当に効果的な対応なのか?

 この問いに対する答えを導くために、アルバイトとして募った大学生80名を対象に、実験的な方法を用いて実証を試みました。

 大学のある一室を職場に見立てて、実験とは知らない部下役の学生たちにその一室に入ってもらいます。

 そこでは、初対面の上司(サクラ)と一緒に仕事を行います。

 上司役は、JR西日本の管理者経験者の方でしたので、実験にリアリティを出すには十分でした。

 部下の仕事として求められたことは、産官学連携プロジェクトのイベントがあり、そのイベントに参加する来客者の電話対応です。

 イベント会場までの道順について、安全でわかりやすく説明する仕事です。電話対応の開始前に、上司と部下は、10分間交流をしてもらいました。

 実は、ここからすでに実験操作が行われていました。

■一つの条件[関係性高群]では、この10分の間に、日常的な会話をしてもらいました。

■他方の条件[関係性低群]では、上司には、目の前のパソコンで忙しそうに仕事をするなどして、会話がしにくい状態をつくってもらいました。

 この実験を行う前の研究検討会などでは、10分程度で関係性(の認知)に明確な違いが本当に出るだろうかという声もありました。

 しかし、すべての実験を終えて行った分析の結果、[関係性高群]では、低群に比べて上司を信頼している(この上司となら一緒にやっていけそう、信頼できる等の認知・評価をしている)という結果が出ました。

 さらに、10分間の上司─部下の交流を終えたら、電話対応を始める前に、部下には以下の目標を持ってもらいました。

■一つの条件[基本目標の条件]では、マニュアルに書かれた内容(電話対応のマナー)を遵守し、ミスを避けて安全確保を強く意識した道案内を電話で対応するようにと伝えられました。

■もう一つの条件[工夫目標の条件]では、相手に配慮してわかりやすい説明を心掛け、サービスの質向上に向けた工夫ある電話対応をするようにと伝えられました。

 ここまでで、上司との関係性(高、低)と部下の目標(基本、工夫)の4条件ができ上がりました。

 そして、今後同様のイベント運営を行うときの参考資料にするというカモフラージュをして、上司との関係性(信頼できそうな人かどうか等)や印象評価、仕事に対する部下のモチベーション(仕事に対する責任感)などについても答えてもらいました[初期値の測定]。

 記入後しばらくしたところで、外部(この人もサクラです)から電話がかかってきて、いよいよ対応本番です。

 部下が対応している間、上司はそばにいます。部下からすると、なかなか緊張する状況です。

 1回目の電話対応が終わった後、ほめの操作を行いました。

[ほめ条件]では、上司は、「今、工夫して説明していて、よかったよ!」というひと言をフィードバックしました。

[ほめなし条件]では、上司はとくに何も言わないままでした。

 このフィードバック時間を見計らって、2回目のアンケート調査への記入を求めました。

 この後、同様の電話対応とフィードバック操作をもう1回繰り返して、実験を終了しました。

効果的な「ほめ」に必要な2つの条件

 さて、実験の結果です。ほめることは、ポジティブな効果をもたらしてくれるのか。

 答えはYESでした。ただし、それは限定的なもので、2つの条件を満たさなければポジティブな効果を得られないということもわかりました。