「妬み」「温度差」「不満」「権力」「信用(不信感)」。企業であれ、スポーツチームであれ、リーダーであればドロドロした人間関係を避けては通れない。組織を支配するこれらの要素に着目し、心理学から脳科学、集団力学まで、世界最先端の研究を基に「リーダーシップと職場の人間関係」を科学的な視点でひもといた画期的な1冊が『武器としての組織心理学』だ。本稿では、特別に本書から一部を抜粋・編集して紹介する。
スター級人材だけを集めれば、チームを強くできる?
なぜ、リーダーにとって良好な人間関係の構築がそこまで重要なのでしょうか。
突然ですが、ここで質問です。リーダーとなって結果を出せるチームをつくろうとしたときに、次のどちらのチームづくりを選択しますか。
A:個人の能力が極めて高い人だけを集めてチームをつくる
B:個人の能力が極めて高い人と、その下のレベルの能力の人を集めてチームをつくる
一般的に私たちは、Aのようにメンバーを構成することでチームのパフォーマンスを高められるだろう、という信念を持っています。
しかし、サッカーのナショナルチームを調査した組織心理学の非常に示唆的な研究があります。[1]
縦軸が「ナショナルチームのパフォーマンス」、横軸が「トップタレント(世界有数のエリートチームに所属する選手)がナショナルチームに占める割合」です。
ある割合までは、トップタレントが増えるほど、チームのパフォーマンスが高くなっていきますが、それを過ぎてトップタレントの選手が多くなりすぎると、チームのパフォーマンスが下がっていくことがわかりました。
さらにこの研究では、アメリカのプロバスケットボールチームについても分析を試み、「トップタレントが増えすぎるとチームパフォーマンスが下がる」という同様の傾向が明らかになりました。
連携することで初めて大きな成果が生まれる
能力が高いメンバーを集めさえすれば、強いチームができあがると私たちは信じがちですが、必ずしもそういうわけではないのです。
お山の大将ばかり集めても、連携できる関係性がなければ、チームの力は上がらないということでしょう。
「メンバー同士がどのような関係性にあるか」が、個々の能力と同じくらい大事だということです。
世界ではじめて自動車の大量生産を実現したフォード・モーターの創始者ヘンリー・フォードは、組織心理学の考え方にとって示唆に富む言葉を残しました。
「人が集まってくることが始まりであり、人が一緒にいることで進歩があり、人が一緒に活動することが成功をもたらす」
1人で達成できる仕事の量や成果はたかが知れており、リーダーとして成果をあげるためには、より良い人間関係の構築が絶対なのです。
脚注: [1] Swaab, R. I., Schaerer, M., Anicich, E. M., Ronay, R., & Galinsky, A. D.(2014). The too-much-talent effect: Team interdependence determines when moretalent is too much or not enough. Psychological Science. 25(8), 1581-1591.
(本稿は、『武器としての組織心理学』から抜粋・編集したものです。)