「ほめない」=暗黙の叱責
職場の中で、関係性が良好だと思える部下、あるいは後輩を思い浮かべてみてください。あるいは、上司と比較的うまくいっているというならば、その上司を思い浮かべてください。
最近、あなたは職場でその人をほめましたか、あるいはほめられましたか。
部下から時間をかけて練り上げられた企画書や試作品があがってきたとき、それを見たあなたは、どのようなコメントを返しましたか。あるいは上司からどのようなコメントが返ってきましたか。
もしかしたら、次の指示が飛んできただけで、労いのひと言もなかったかもしれません。
「職場でほめられることはないよなぁ……」という状態が、「ふつう」になってしまっているようにすら感じることがあります。
上司の立場にある人は、
「言わなくても、長い付き合いの中だから雰囲気で伝わっているだろう」
「悪いことは早く伝えておかないと大変なことになる。でも、ほめるのは、この仕事がひと区切りになったときでいいだろう」
と考えているうちに、結局は伝えそびれてしまったということはありませんか。
先ほどの実験結果のうち、興味深い点について、少し補足してみたいと思います。
もし、部下との関係性が良好でも、(自他ともに認めるほどに)がんばっている部下をほめないでいるとどうなるのでしょうか。
自分なりに工夫を重ねて仕事をしている部下に上司が何のフィードバックも与えないでいた条件では、部下は「暗黙の叱責を受けている」と感じていたのです。
上司と疎遠な関係性にある部下の方が、暗黙裡に叱責されているという感覚が高まりやすい傾向にありましたが、上司と良好な関係性にある部下も程度の差こそあれ、同様のことを感じていたのです。
「上司とはうまくいっている(はず)、そして今、自分は自分なりに考えを重ねて仕事にあたっているけれど、上司は何一つほめることはない」
このように、良好な関係にある上司から、今回の仕事については何の労いも前向きな言葉もなかったという部下は、ひと言のフィードバックをもらった部下と比べて、統計的に有意に叱責されていると暗黙のうちに感じていたのです。
この実験は、上司─部下が出会って間もない関係性初期のころを模したものなので、そうであるならば、新入社員の期間にはとくに意識して対応したいところです。
心しておきたいことは、疎遠な間柄だから言わない、良好な間柄だから言わなくても伝わっている、ではないということです。
人を前向きにする言葉は大切だからこそ、惜しみなく確実に届けたいものです。
脚注:[1]Fong, C. J., Patall, E. A., Vasquez, A. C., & Stautberg, S. (2019). A meta-analysis of negative feedback on intrinsic motivation. Educational Psychology Review, 31, 121-162.
(本稿は、『武器としての組織心理学』から抜粋・編集したものです。)