部下のモチベーション(仕事に対する責任感)に対する効果については、特にとても興味深い結果が得られました。

(1)ほめどころ

 部下の責任感を高めたのは、上司が、ほめどころをほめたときでした。

「工夫目標」が設定された部下たちに、上司が「工夫して、よかったよ!」とフィードバックしたとき、次の仕事も手を抜かず責任をもって努めようという意識が高まったのでした。

 一方、「基本目標」を持って取り組んだ部下の場合、上司から「工夫していて、よかったよ!」と言われても、責任感の得点は変動しませんでした。言葉の上ではほめていても、部下にとってその意味や意図はきっとピント外れに響いたに違いありません。

 つまり、より前向きな職務態度を育てる上で、ほめどころを見つけてそれに即した前向きな言葉を伝えることは重要なポイントと言えるでしょう。

(2)良好な人間関係

 部下の責任感を高めたのは、「上司との人間関係」が良好な状態で形成されていたときでした。

 上司がほめどころをほめると、部下の責任感は確かに高まっていきました。世間一般で言われている通り、ほめることは良いことでしょう。

 しかし、非常に重要で注意しなければならないのは、このほめ言葉のポジティブな効果は、そもそもの人間関係が良好に築かれているときに限った話だということです。

 この実験の結果で言えば、出会ってすぐの10分間で形成された関係性がその後の仕事に対する取り組みの姿勢をポジティブな方向へと変容させたことが、それにあたります。

 しかも、1回目にほめたときよりも、2回目にほめたときにはさらに責任を持って、手を抜かずに取り組もうという意識が高まったのです。

 ところが、上司との関係性が十分に築かれていなかったときには、同じ言葉でほめたにもかかわらず、部下の責任感は初期値よりも低下し、その状態が維持されたのです。

 つまり、そもそもの人間関係が整っていないところでほめたとしても、ポジティブな効果を持たないどころか、仇になることすらありうるということです。

 部下にしてみると、仕事を始める前の上司の対応や雰囲気からするとほめられているとは思っていなかったでしょう。

 この結果は、上司からの想定外の対応に対して、部下が戸惑いを感じ、また上司の真意に対して疑念を持つことになったことによると考えられます。

 この研究で明らかになったことをまとめると、次の通りです。

■ほめどころをほめることで、部下の責任感やモチベーションを高められる。
■人間関係の豊かな土壌がないところでどんなに美辞麗句を並べても、相手の心には響かない。