政治の変化に無反応になっていく香港市民たち

 しかし今回、こうした変化にこれまでなら最も敏感だった香港庶民の反応は、大変薄い。ほぼ無反応といっても過言ではないだろう。それもそうだ。昨年は年初から終わりまで1年間ずっと、見慣れた香港のルールや事物の破壊と、それらが見知らぬものに置き換えられていく様子に翻弄され続けたのだから。大量の見知らぬ議員が誕生した立法会議員選挙は、そのゴールだった。それに振り回されないためにも、市民は自分とは関係ないところで進められる動きにすっかり関心を示さなくなり、ひたすら自分の関心事に没頭し始めたのである。

 それは30年前、「市民は政治に無関心」といわれていた時代が復活したかのようにもみえる。しかし、あのときの市民は「オレが無関心でも世の中悪くはならない」と信じていた。一方で今は、「無関心でいること、それが身を守ることだ」と感じている。

 年末に幹部が逮捕され、突然閉鎖を余儀なくされたネットメディア「立場新聞」の銀行口座には摘発当時、6000万香港ドル(約9億円)を超える資金が残っていた。警察は事情聴取した同メディア主筆にしつこく、「広告もなく課金システムもないのに、どこからこんなにお金が集まったんだ?」と、資金源を尋ねたという。ラジオのインタビュー番組に出演した同主筆は、「あれはこの2年間頑張ってきた編集部に対する読者からのクラウドファンディングによる支援だった」と声を詰まらせた。それを聞いて多くの香港人が心を痛めた。人々は今、表面上は無関心を装いながらも、自分の関心事と「やるべきこと」はしっかりとその手に握り続けているのである。

 一方、新任議員たちの一部は年が明けると早速深センに出かけ、そこで待ち受けていた中国国務院(中国の内閣に相当)下の香港マカオ担当機関である香港マカオジム弁公室の責任者と面談した。これまでなら、香港の立法機関の議員が選挙後すぐに中国政府の関係者を訪ねることなどあり得なかった。選挙後のあいさつ回りだとしても、いの一番に訪問するのは「自分の当選は中国政府のおかげ」といわんばかりの行為だった。ここでも市民はそんな報道に知らん顔していたけれども。

 だが、その翌日、ついに政府や議員たちが市民の注目を受ける騒ぎが持ち上がった。