見方を変えれば、展示施設の面積を10万平方メートルから2万平方メートルに縮小し、修正後の募集要項には「段階整備」の時期の見直しも書き込んだため、無用の巨大なハコモノ建設を回避できたともいえる。ただし上物がどうあれ、「土壌」には当初公表していなかった莫大な費用が投じられることに変わりはない。

 この会議では、昨年末に公表されて批判を浴びた、市による夢洲の土壌対策費790億円の負担についてもやりとりがあるが、当時はその金額の規模は不明だったようだ。

「鉛筆1本無駄にしない」維新の政策で
埋め立て地に790億円、リターンは根拠不明

 高橋副市長が土壌汚染対策を挙げて「負担の程度は何か想定しているのか」と尋ねたのに対し、坂本IR推進局長は「具体的な内容については事業者の提案になる」とした上で、「提案の内容を見て、残土の量であるとか、時期であるとか、処理の方法をどのようにしていくのかなどを踏まえた上でということになるので、現在のところ想定している負担については、未確定であるが、可能性はあると考えている」と回答した。

 要するに、IR推進局はこの時点で、費用は事業者の提案次第と説明していたということだ。高橋副市長はその場で「市の負担が軽微になるようしっかりと調整してもらいたい」と求めた。

 そして昨年末になって、土壌汚染対策費が790億円と突然公表された上、今年1月には地下鉄中央線の延伸費用に追加で96億円、さらに2月に入ってからは、IR予定地と隣り合う25年の万博会場跡地の土壌対策費に788億円が必要だと判明した。

 大阪府市を率いる大阪維新の会のキャッチフレーズは「身を切る改革」だ。松井市長が16年の街頭演説で「みなさんの税金をお預かりして役所の中で使うときは、セコく、セコく、細かく。鉛筆1本、紙1枚、無駄にしない」「大阪府、大阪市では、両面コピー、鉛筆も短く短くなるまで絶対使う」と「大阪流セコセコ行政運営術」の意義を語ったように、これまで職員給与や事業の削減を成果に誇り、選挙戦で訴えてきた。

 その半面、夢洲には、上物の計画を縮小して当初の「成長戦略」の変更を強いられたにもかかわらず、土壌対策には大盤振る舞いで、「軽微」とは到底いえない金額を投じようとしている。松井市長はIRによる財政的なリターンを強調するが、大阪府市が事業者から年間に得るとはじいた1030億円は、コロナ収束を見込んだ楽観的な数字である。

 そもそも松井市長や大阪府の吉村洋文知事はこれまで、一連の計画に「公費負担はない」と説明してきたが、土壌対策の負担が明らかになってから「IRの『施設』に公費は使わない」といった主張にすり替えており、朝日新聞は2月5日付社説で「およそ通用しない言い訳だ」と突き放した。

 そして重要なのは、夢洲の土壌対策費の規模について、坂本IR推進局長が21年2月の段階で、事業者からの提案によると語ってから、年末に790億円という金額が公表されるまでの間に、市と事業者側との間でどのようなやりとりがあったのか、黒塗りが解除されても、何一つ明らかになっていないことである。

 松井市長は1月27日の記者会見で「大勢のお客さんが集まるので、安全で安心して楽しめる土地にしてくださいというのが事業者からの要望。それを受けて判断した」と語った。だが、一般的に湾岸の埋め立て地の地盤に問題が起きやすいことは土木工事の世界では常識であり、巨額の対策コストが「想定外だった」との市側の説明は通らないだろう。

 市IR推進局は取材に対し、2月10日開会の市議会定例会に合わせて黒塗りだった文書を開示したとしているが、議論の材料としてはあまりに不十分だ。