組織に在籍するなら、インクルージョンの意識が大切

 ダイバーシティ・マネジメントの実践のために、人事部が管理職の研修や社内での啓蒙活動を行っても、自分と異なる価値観を認められるかどうかは個人差があり、相手次第でもある。ダイバーシティ&インクルージョンメディア「オリイジン(*5)」では、“すべての価値観を「理解する」ことは難しいので、理解に至らなくても、個人個人が多様な価値観を「知る」ことが重要”としている。また、私生活(生活の共同体)におけるインクルージョンと仕事(会社の組織)におけるインクルージョンには濃淡があるだろう。

*5 2017年~2020年にダイヤモンド社が雑誌媒体として発行。現在は、オンラインメディア「オリイジン」でダイバーシティ&インクルージョンの情報を発信している。

酒井 私の個人的な考えですが、ある人の思考パターンは、私生活でも仕事でも、基本的には変わらないもの。「仕事ではこう考えるけど、プライベートではこう考える」といったふうにパタンパタンとは切り替えられないと思います。しかし、企業に勤める以上は、社の理念や行動指針に沿い、組織においてダイバーシティ&インクルージョンの姿勢が求められるのなら、それを意識しなくてはいけないでしょう。特に管理職は、職場に多様な人材がいることを理解し、インクルージョンの姿勢を心がける必要があります。どういう発言をするべきか、どういう行動をとるべきか――たとえば、「今日の1on1ミーティングは相手に8割はしゃべってもらおう。まずは最後まで聞いてみよう」というふうに、ダイバーシティ・マネジメントのスキルで部下と接してみることです。たとえ、部下の価値観に賛同できなくても、それはやってみた結果のことなので、インクルージョンを意識しないよりはずっといいはずです。

 できる・できないは次のステップとして、組織に属するビジネスパーソンは、管理職はもちろんのこと、一般職の従業員も「インクルージョン」を意識していくことが賢明のようだ。

酒井 いま、会社の存在意義や理念を問われる時代になっています。従業員はそれにどれだけ共感できるか――もし、まるで共感できないのなら、我慢し続けるよりも自ら退出するのもありでしょう。たとえば、自社がダイバーシティ&インクルージョンを推進するとなったとき、それはできないし、したくないと思えば、給与で生活を立てるという経済的な在籍理由はさておき、別の組織に移る選択肢を考えることもあり得ると思います。