中小企業のダイバーシティ&インクルージョン
一般社団法人 日本経済団体連合会(経団連)の調査結果(*6)では、「ポストコロナ時代の新しい事業環境に対応するうえで、ダイバーシティ&インクルージョン推進が“重要”」と答えた企業が96.3%という数字だった。大企業がダイバーシティ・マネジメントを重視し、実現していく姿勢はわかりやすいが、人材不足の中小企業にとってのダイバーシティ&インクルージョンは、実現のハードルが高いのではないか。
*6 「ポストコロナ時代を見据えたダイバーシティ&インクルージョン推進」に関するアンケートより(2020年10月 一般社団法人日本経済団体連合会)
酒井 たしかに、ダイバーシティ・マネジメントは、「大企業だからできる、外資系だからできる」と言われることがありますが、経済産業省のダイバーシティ経営企業100選は、大企業と、従業員300人以下の中小企業も対象にしています。選出された中小企業の取り組み事例を見ると、その企業ならではの施策もあります。ダイバーシティ&インクルージョンは、企業規模の大小が左右するものではなく、中小企業だからこそできる取り組みもたくさんあるのです。たとえば、1人の従業員がさまざまなスキルを身につけて、誰かが休まざるを得なくなったときにフォローする姿勢は縦割り組織の大企業では難しいでしょう。中小企業ならではの組織間の垣根の低さや部門横断の仕事はインクルージョンの可能性を高めていきます。
昨年2021年3月には、経済産業省は「多様な個を活かす経営へ~ダイバーシティ経営への第一歩~(改訂版)」を公表し、企業が多様な人材の活躍に向けた取り組みを進め、実現していくためには、「経営者の取組」「人事管理制度の整備」「現場管理職の取組」の『3拍子』を揃えることが必須だと提言した。3拍子のうち、特にどれが重要だと酒井さんは考えているのだろうか。
酒井 「経営者の取組」「人事管理制度の整備」「現場管理職の取組」のどれがいちばん重要かということよりも、3つが重なり合い、それぞれが結びついていることがポイントです。経営者のビジョンや会社の存在意義はそこで働く人の姿勢に反映するので、「経営者の取組」が「人事管理制度の整備」に紐づき、「人事管理制度の整備」は各職場でのマネジメントである「現場管理職の取組」に結びつきます。3つを切り離して考えることはできません。ですから、どれかひとつを重点的に頑張るのではなく、3つをバランス良く実現していくのが理想です。
また、3つの関係性で気をつけたいのは、「人事管理制度の整備」ありきになってしまうこと。「制度を作ったので、現場の管理職は必ず実行してください!」といったときに、多忙な管理職は、「何のためにやらなければいけないの?」「どのようにその制度を実行していけばいいの?」という疑問を持ち得ます。そうした傾向から言えば、「現場管理職の取組」が「人事管理制度の整備」に先立つかもしれません。「組織内のメンバーがダイバーシティ&インクルージョンをどうすれば実現できるか?」という現場管理職の考えによるボトムアップです。