ロッテの承継でも出た「強すぎるオーナーの弊害」

 韓国財閥の事業承継では、すでに2代目、3代目と代を重ねることで「知恵」や「知見」を備えるようになってきてもいる。

 例えばLGは、一貫して「長男が継ぐ」という古い伝統を保持する一方で、3代目に実子がいなかったことから早くから甥を養子として迎え入れていた。その3代目は2018年に急逝したが、その後の承継もスムーズに完了した。

 またサムスンで2代目として本体事業を承継したのは長男ではなく三男の李健熙(イ・ゴンヒ)だったが、「これは創業者が自らの子弟たちの経営の才能を見極めたうえでの選択であり、かつ、大規模な分割は行わずに大部分の系列企業をサムスングループ本体に残し、分離した企業の資産額はグループ全体の15%にとどめており、経営合理性を第一とした事業承継として注目された」(安倍氏)。

 一方で、創業者から2代目への承継では、争続になるケースが多かったし、今でも多いのだ。先に紹介した現代の大分裂騒動では、若くして亡くなった長男の役割を次男が務めていたが、創業者が後継者を指名しないまま認知症の症状も出てしまい、結果的に争続で兄弟喧嘩(王子の乱)となってしまった。

 この連載は、ロッテ財閥における事業承継の失敗をテーマとした『経営者交代 ロッテ創業者はなぜ失敗したのか』をベースにまとめているが、そのロッテにおける事業承継でも、「後継者を決めかねたのは、創業者ならではの力の強さが出たケース」(安倍氏)であった。

 ロッテの創業者である重光武雄は、多くの財閥が争続を繰り広げるのを見てきたはずだが、「まだまだ俺が」という自負を引きずり、認知症も出始め、結果的に長男への承継計画を次男に覆される結果になった。

 ロッテにおける兄弟の戦いを、韓国の人たちはどのように見ているのかを安倍氏に尋ねると、かの国の難しさが浮かび上がってくる。「長男の承継ではない」ことには、韓国でも違和感がなくなっている。そのうえで、「ロッテはどこの国の企業か」「それは経営者が韓国語をきちんと話して韓国でビジネスをしているかどうか」などで評価が決まっていくというのである。

「ロッテは、資本構成をたどれば日本に行き着くので、日本企業ではないかと批判されてしまう。長男の重光宏之氏は、騒動が発生した際に韓国マスコミのインタビューに日本語で答えたが、韓国内では非常に評判がよくなかった。その点、二男の昭夫氏は、たどたどしいと一部から揶揄されながらも韓国語で対応している」(安倍氏)

 創業者の武雄が、日本国内の子会社を活用して多額の資金を韓国に送り、政府に求められるさまざまな事業を展開したことは、『ロッテを創った男 重光武雄論』『経営者交代 ロッテ創業者はなぜ失敗したのか』 で詳細に紹介しているが、それもこれも韓国の人たちには「外資系企業の行為」としか受け止められていないのだろうか。

 大手財閥では唯一、コロナ禍後の業績の落ち込みが大きいロッテグループには、韓国内では「大手財閥として資産規模5位の位置を維持するのは難しいのではないか」という厳しい予測が報道されたりもしている。

 そうした報道に安倍氏は、「流通事業の海外展開は行き詰まりの状態にある一方、韓国インテリア業界1位のハンセムやミニストップの韓国部門など国内流通企業の買収に乗り出している。また化学工業の国内外プラントの新増設には積極的である。韓国国内での手厳しい報道ほどには順位を落としたりはしないと思うが、国内流通再編の行方や化学工業の業績如何で今後を見通せるのではないか」と分析している。