「健診」「貧困」「就学」などの異なるデータを
連携させると何ができるのか

 ここまで長く説明をしてきましたが、データ連携をすればどのようなことがわかって、どのように支援につなげることができるのか。そのイメージをつかんでいただけるよう、具体的な例とともに説明したいと思います。

 既にご紹介した兵庫県尼崎市の「学びと育ち研究所」では、大学の研究者と共同で行政記録情報を連携したデータ分析が始まっています。このデータは匿名化されており、児童・生徒の氏名や住所など、個人を特定できる情報は一切含まれていません。

 このデータを用いた分析を手掛ける研究者の1人である山口慎太郎東京大学教授は、小学校に就学する前に幼稚園にも保育所にも通わない、いわゆる「無園児」がどのような環境に置かれているのかと言うことを明らかにしています。

 その結果、無園児の子どもは、そうでない子どもと比較すると、生活保護受給家庭の子どもが多く、3ヵ月健診や3歳児健診にも不参加である確率が高い傾向があることが明らかになりました。

 幼稚園や保育所は義務教育ではありませんから、行かなかったとしても個人の自由です。しかし、この分析から、幼稚園にも保育所にも通っていない子どもは、日頃接する保育士さんや保健師さんなど家族以外の大人の目が届きにくく、行政の支援から漏れてしまっているリスクの高い子どもであるかもしれないことがわかります。

 このように健診、貧困、就学などの所管の異なる情報を組み合わせて分析することで、「どのような子どものリスクが高いのか」「どのように支援すべきなのか」ということを考えるうえで非常に重要な情報となります。このようにデータと科学的な手法を用いて示されたエビデンス(科学的根拠)を用いて、より効果的な政策を行おうとする動きのことを「エビデンスに基づく政策形成」(EBPM)といいます

 こうした分析は、「予防的支援」にもつながります。過去のデータからどのような子どものリスクが高いかがわかっていれば、先回りして健診に来なかったり、あるいは幼稚園や保育所に申し込みがなかったりした時点で行政側からアウトリーチを行い、先回りして支援を開始することができ出来るかもしれないからです。

 もし予防的に支援を行い、問題が生じる前に解決できれば、行政だけでなく、何より子ども本人の負担を軽くすることができます。「予防的支援」という考え方は教育や福祉の分野でも重要になってくることは間違いありません。