「要望を待たずに行政から支援する試み」は
一部自治体ですでに行われている
実は、これはデジタル庁の中で突如として始まった構想ではありません。河野太郎行政改革担当大臣(当時)の下で実施された2020年度の「秋の行政事業レビュー」(子供の貧困・シングルペアレンツ問題(II)の中で、慶應義塾大学の宮田裕章慶應義塾大学教授ら複数の有識者から、子どもの貧困問題に関し、要望を待たずに行政が支援を行う「プッシュ型の支援」を行う必要があるという指摘がありました。
その後、河野大臣のリーダーシップで、内閣府に「貧困状態の子供の支援のための教育・福祉等データベースの構築等に向けた研究会」が設置され、山野則子大阪府立大教授を中心に検討が進められてきました。
今回の「データ連携による支援が必要な子どもに対する支援の実現」は、この内閣府における会議での検討を踏まえて行われるものであり、1月21日に開催された「こどもに関する情報・データ連携 副大臣プロジェクトチーム(第2回)」においても、同研究会での検討状況が報告されています。
リスクの高い児童・生徒に早期に介入し、救済をしたいと考える自治体のニーズは強く、一部の自治体は既に自前で自治体内の情報共有を行うための仕組みづくりを開始しています。
例えば、大阪府箕面市、茨城県つくば市、兵庫県尼崎市などでは、個人情報保護条例を遵守しつつも、行政や教育委員会が管理するデータを連携し、貧困、虐待、不登校、障害などを持つ子どもに対するプッシュ型の支援を展開する試みを始めています。
三重県では、産業技術総合研究所と共同で人工知能(AI)を活用した児童虐待対応支援システムを構築しています(これらについては、資料も公開していますので是非ご覧ください)。デジタル庁の「データ連携による支援が必要な子どもに対する支援の実現」は、こうした自治体の取り組みを更に後押しするために行われます。
SNSには、データ連携などよりも、児童相談所の人員増こそ必要であるというご意見もありました。私自身も、児童相談所の人員増、特に児童福祉に関わる専門人材の育成は必須だと考えていますが、現実には虐待件数は、職員数の増加をはるかに上回るペースで生じており、職員の人員増とともに、支援の「質」の向上も重要です。
児童福祉法で定められた「要保護児童対策地域協議会」(いわゆる要対協)では、要保護・要支援の対象となる子どもの数が増加しすぎて、個々のケースについて十分な検討を行うことができず、虐待による死亡を生じさせてしまったという反省もあり、厚労省はかねてから要対協における機能強化として、「情報共有」のあり方の見直しが必要との認識を持っています。