私の高速道路での振る舞いも、「マスタングGT」に乗り始めて変わりました。サスペンションはフォルクスワーゲンと比較すると従順さに欠け、高速道路での走行が快適であるとは到底言えません。そんな中、積んだ荷物のことを気遣う必要がある際はややスピードを落とした状態で走るようになりました。

マスタングGTLUCAS BELL

 その影響でしょうか?そう、 交通状況の変化に快く対応できなくなりました。自分以外のドライバーの実力について常に疑いの目を向けていることも手伝って、追い越しや車線変更の回数が驚くほど増えたのです。「マスタングGT」のエンジン音は高速道路でもよく響き、私の存在を他のドライバーに知らしめるのに大いに役立ちます。

 ただしそのせいで、私がレースを仕掛けていると勘違いする相手が現れることも少なくありません。特に「モパー」(編集注:クライスラー系のクルマ一般の総称)を駆るドライバーの多くが、特にそんな反応を示すように感じられます。その都度、私のマスタングの性能が気になります。たいていは彼らに軍配が上がるのですが、常にそうとは限りません。

このクルマが与えてくれる体験こそ、
EVの未来に求められるものでしょう

「マスタング」は、言わば遊び心からつくられたクルマです。V8エンジンを乗用車に積んでいるのです。そのことが、私の自動車魂に火を点けたわけです。常識人なら愚か者のレッテルを貼らずにはいられない、そんなバカげた振る舞いをするのに適したクルマなのだ…と私は感じています。

 とにかく、この古い「マスタングGT」から降りるたび思わず笑みがこぼれるのです…。ヴィンテージと呼んで良いほどのポニーカー(1964年にデビューしたフォード『マスタング』によってできたジャンル。 1950~60年代のアメリカで一般的にフルサイズと呼ばれた大型車よりも小さく、それでいてスポーティな2ドア車)ですが、このクルマが与えてくれる体験こそ、目前に迫った電気自動車の未来に何よりも求められるものに違いありません。

 …と言うわけで私は、この素晴らしいV8エンジンを知ったことで、自分の意識は180度転換してしまったのです。ただし、それ以外に目を向けてみれば、悪路だらけのミシガン州で生み出されたとは考えたくないほど安定しないリアエンドなど、褒められた点ばかりではありません。インテリアなんて、2001年式「F-150」と笑えるほどに瓜二つです…。

 繊細さに欠けると言わざるを得ない「マスタングGT」ですが、そこを補っているのは、まるで赤血球のように流れるアメリカン・スピリットです。つまり、多少の愚かさは、その点に免じて許されるべきだ…というのが私の思うところなのです。

Text by Lucas Bell and Ryutaro Hayashi
Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。

「マスタングGT」のせいで、アラサー不良ドライバーになった米国人男性の告白