“今時の若者”が求めるのは
具体的なアドバイス

 本書の主張は、「若者は甘えている」「昔は良かった」というものではない。そんなことを言っていても、ただでさえ生産年齢人口が少なくなっている日本で、人材不足は解消しないだろう。若者の意識が、長年にわたる学校教育によって染みついたものであるならば、すぐにそれを変えるのは難しい。ならば、上司や管理職、リーダーが「合わせる」しかない。

 とはいえ、付きっきりのマンツーマンで丁寧に指導する体制を取るわけにもいかない。冒頭で触れた、かつての新人研修のような「しごき」で意識を変えようとするのは、むろんもってのほかだ。どうすればいいか。

 中野氏は、若者を使いこなすのにどんな能力が必要かを知るべきと指摘し、2018年2月に実施された、求人情報メディアを運営するエン・ジャパンによるアンケート調査から「上司に何を期待するか」という設問の回答結果を紹介している。

 それによると、34歳以下の若者は「業務について具体的なアドバイスをくれること」「分かりやすく細かい指示を出してくれること」という回答が、他の年代よりも多かった。

 つまり、現代の若者に対しては「具体的なアドバイス」をするのが有効ということになる。付きっきりで指導することはない。要所要所で、的確なアドバイスを具体的にしてあげればいいのだ。

 抽象論や「死ぬ気で頑張れ」などという精神論は、全く響かないばかりか、老害とか言われ、嫌悪される恐れがある。逆に、具体的で納得のいくアドバイスがもらえれば、自分の成長を助けてくれているという安心感を持ってもらえる。

 そうした若者の意識は上司やベテラン社員の目には「甘えている」としか映らないかもしれないが、実は今後の教育改革で良い方向に変わっていくかもしれない。

 文部科学省の中央教育審議会(中教審)が2021年1月26日に公表した「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」に、次のような一節がある。

「新型コロナウイルス感染症の感染拡大による臨時休業の長期化により、多様な子供一人一人が自立した学習者として学び続けていけるようになっているか、という点が改めて焦点化されたところであり、これからの学校教育においては、子供がICTも活用しながら自ら学習を調整しながら学んでいくことができるよう、『個に応じた指導』を充実することが必要である」

「自立した学習者」という言葉に注目したい。「自力で成長できる人材」と読み替えられないだろうか。

 奈須正裕著『個別最適な学びと協働的な学び』(東洋館出版社)という書籍には、この中教審の答申を踏まえて山形県天童市立天童中部小学校におけるユニークな授業実践が紹介されている。児童が教師に代わって授業を行う「自学・自習」、児童が自分で学習計画を立てる「マイプラン学習」、さらに自分で学習内容までも決める「フリースタイルプロジェクト」という3つの取り組みだ。

 こうした取り組みが進み、自立した学習者を目指す教育が当たり前になれば、「受け身の成長」を求める若者の意識も変わっていくことが期待できる。

 まずは職場にいる若者のことを「よく分からない」と諦めずに、理解するよう努めてみてはいかがだろうか。無理に合わせる必要はないが、時代の変化も念頭に置きつつ接し方を考えることは、決してマイナスにはならないはずだ。

(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)

情報工場
「今時の若者は甘えている」と嘆く前に上司がするべきたった1つのこと
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