「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。
他人のモノサシを鵜飲みにするエリート
ハーバード・ビジネス・スクールでイノベーションに関して類稀な業績を残した経営学者、クレイトン・クリステンセンは、彼の同窓だった元エンロンのCEO、ジェフ・スキリングを題材にしながら、人生に「自分なりの成功のモノサシ」を持つことの重要性を、ハーバードの卒業生に向けて語っています。
エンロンの金融破綻に関わる重罪の有罪判決を機に、彼のキャリア全体が明るみに出ると、わたしは彼が人生をはなはだしく踏み外したことを知って、大きな衝撃を受けた。何かが彼に道を踏み誤らせたのは明らかだった。満たされない私生活、家庭の崩壊、仕事上の葛藤、そして犯罪行為。
クレイトン・クリステンセン『イノベーション・オブ・ライフ』
クリステンセンは同書の中で、スキリング以外にも、将来を嘱望されながら社会に羽ばたいていった彼の同窓生たちが、しばしば人生を「はなはだしく踏み外している」ことを述べています。
このようなニュースや情報に触れると、多くの人は「エリートなのになぜ?」という問いを立ててしまいがちですが、話は全く逆で、むしろ彼らは「エリートだからこそ」人生を踏み外したと考えるべきなのです。
なぜならエリートは全般に「他者から与えられたモノサシを鵜呑みにする」傾向が強いからです。課されたテストに意味や目的を問うこともなく、ただ一番を目指して一心不乱に取り組める、そのような性格特性が、彼らの成績を押し上げ、エリートたらしめるのです。
ジェフ・スキリングは自他ともに認める「エリート中のエリート」でした。彼自身が当時のインタビューで語っているように「自分は一番以外になったことがない」という人生をずっと送ってきたのです。
しかし残念なことに、スキリングは「与えられたテストで一番になること」ばかりを考えるだけで、最も重要な「私の人生で最も重要な指標は何か?」「何を一番にしたら私は幸福になれるのか」という問いについては考えたことがなかったのでしょう。
結果は、経営破綻、家庭の崩壊、そして止めが禁錮24年の実刑判決で、まさに「破滅」です。
ジェフ・スキリングをはじめとしたエリートの破滅は、私たちに「自分なりの成功のモノサシ」を持つことの重要性を示しているように思います。