第3に、丸井はエマージングECショップに対して、店頭運営ノウハウの提供だけでなく、資本出資も行っており、発掘したショップが大化けすればキャピタル・ゲインも期待できる。いわば、「流通業のベンチャーキャピタル」とも言えるモデルも、丸井は併せ持っているのである。

早くも現れる競合たち
新しいビジネスモデルの課題

 丸井の新しいビジネスモデル「売らない店」は、今後も独自性を発揮し続けるであろうか。

 国内では大丸東京店が、21年10月から店内にショールーミング・スペース「明日見世」をオープンし、早くも「売らない店」に同質化競争を仕掛けてきている。現在は、店舗の一部スペースを開放している段階にとどまっているが、今後の方向はいまだ見えていない。

 また、米国で売らない百貨店として有名な「ショーフィールズ」が、22年夏にも東京に出店を計画しており、「売らない店」同士の競争激化が予想される。さらに、新たに登場する「売らない店」との間で、エマージングECショップの奪い合いの可能性もある。

 丸井では、21年上半期における出店テナント109店のうち、85%が体験型などの非物販テナントとなった。さらに、21年3月期に43%であった「売らない店」の面積比率を、26年3月期には7割まで高めることを目標としているが(注2)、魅力のあるエマージングECショップをどこまで発掘することができるだろうか。ただの数字合わせになれば、顧客からそっぽを向かれてしまい、丸井の店舗の魅力も高まらない。一方で「売らない店」がある程度増えないと、店舗の独自性は高まらない。ここに最大のトレードオフがある。

「流通業ベンチャーキャピタル」としての丸井の目利き力、売り場構成力が、今後ますます問われてくるであろう。

(注1)本ケースは、筆者と早稲田大学大学院経営管理研究科 児島有希との共同研究によっている
(注2)非物販テナントは、体験型(30%)、食・サービス(29%)、イベント(11%)から成る。
   「2022年3月期 共創通信(中間報告書)Vol.11

(早稲田大学ビジネススクール教授 山田英夫)