「孤独死するんじゃないか」の恐怖

 一方で、Aさんは“友達作り”におけるこの数年間の苦労を振り返り、次のように話す。

「数年間滞在して“知り合い”はゼロでした。日本に来たことを後悔し、孤独死するんじゃないかと思ったこともありました。声をかけてもらうため、わざと変なデザインのTシャツを着てキャンパスに行ったこともあります」

 そんなAさんに関心を向ける日本人学生はいなかった。大学時代はかえって「変な外国人」と思われたのか、結局声をかけられることはなかった。それでもAさんは友達作りを諦めず、SNSを駆使してようやく自分に関心を持ってくれる人と巡り合ったという。Aさんによれば、「先輩たちの中には、孤独を理由に帰国する人も多い」という。

 日本人との間にできる見えない壁は、社会人になってからも依然存在し続けた。東アジア出身のRさんは、会社の飲み会での体験を語ってくれた。

「日本人は、日本人の間だけで盛り上がるタレントやテレビ番組を中心とするトピックを選びがちです。外国人からすれば、日本人が関心を向ける話題はかなりニッチであり、ついていくことができませんでした」

国際政治が影を落とす

 中国人留学生はキャンパスの中でも多数の割合を占めるが、日本人の学生からは「見えない距離を感じる」という声も聞かれる。都内私大に在籍する日本人のNさんはバイト先で中国人留学生と知り合ったが、話題選びに気を使うという。「目まぐるしく変化する国際政治ですが、これについて触れるのはタブーなのか、会話が続きません」と話す。

 留学生のみならず多くの中国人は、外国で生活をしながらも、背後にある“何か”を意識して口を閉ざしてしまうことがよくある。政治に話が及ぶのを嫌がり、あるいは話したところで日本人には伝わらないと諦め、むしろ孤立を選ぶ中国人留学生がいたとしてもおかしくはない。

 そんな“暗黙の縛り”を受ける中国人留学生はだんだん謎めいた存在となり、実際は関係ない学生が多いとしても、「中国のスパイだ」「工作員だ」などと、安全保障や政治問題と結び付けられる風潮が生まれてしまう。