一つ目は「自分らしさを押し付けず他者を尊重すること」。それぞれが持っている自分らしさを尊重して仕事をしたいと思っています。もう一つは「思いやりのある言葉がけをしましょう」ということです。思いやりがある言葉って、「思い」がなければ出てこないじゃないですか。例えばさっき、商品撮影の段取りが変わりましたよね。そのとき「一番先に現場スタッフに言わないと。謝らなくちゃ!」って思いました。

 社長がインタビューを受けることは、会社のプラスにもなること。でも、現場のスタッフにとっては、それだけではないと思うんです。営業の合間をぬって前日から撮影の準備をして今日を迎えている。撮影用のハンバーガーを作るための時間配分をしているのに、私が段取りを変えてしまった。だから、「早く伝えて謝らないと」と思いました。それが相手に対する思いやりだと思うんです。

――上司が同じ目線に立ってくれると、働きやすいと感じる部下も多いのではないでしょうか。

藤崎 分からないですよ。本当は嫌かもしれないし(笑)。

 お正月の初売りは現場のスタッフが大変なので、「1店舗くらい、手伝いに行くよ」と言いましたが、「もうやめて」って断られましたね。

 今は黒字化して人も増えていますが、その前は人手不足でしたから、イベントのときは自分で車を運転してハンバーガーを運び、「お待たせしました」と売っていました。車なんかすぐ出すって言いますし。

広報の近藤彰さん 車で移動する際は、僕が助手席です(笑)。

藤崎 つい先日の出来事ですが、うちのEC用商品を委託で作ってくださっている会社にトラブルがありました。ある商品を1000個発注したはずが、先方の会社が忘れてしまい、納期に間に合いませんでした。でも、怒らなかったですね。トラブルが起きたら、次の行動が大事だと思っていますから。

 威圧的になってしまうと、相手の口と自分の耳をふさいでしまう。怒って言葉を発すると、相手には真意が伝わりづらくなって、双方にデメリットしかないので、威圧的な態度は取りません。

――確かに。逆に怒られないほうが反省してしまうかもしれません。

藤崎 そう。だから、反省しているはず(笑)。

 私は怒らないけど、商品が遅れて困るのはお客さまです。社員が「お客さまに商品を発送するのが遅れてしまっているのが、耐えられない」とその業者に伝えることは、お客さまの姿が見えているからいいと思います。ですが、自身の立場とか社中へのアピールでその業者に対して強い言葉を発していたら、「それ、違わない?」って注意すると思います。

「自分に自信がない」は変えられる
本気でやれば、何でもできる

――主婦、アパレル、居酒屋経営からドムドムの社長へと転身されてきた藤崎社長ですが、「主婦から会社の社長になるのは、元々の素質があったからだ」という声もあるのではないかと思います。この点についてご自身ではどう思われますか?

藤崎 よく私の経歴を知った方から「普通の主婦じゃなかったのではないか」と言われるのですが「普通の主婦って何?」と思うのです。ご夫妻だけの生活の方、お子さんがいらっしゃる方、嫁ぎ先のご両親さまと同居の方、実家のご両親さまと同居の方など、それぞれの家庭のありようは異なるわけです。ですから、普通なんてなくて、39歳まで主婦だったという経歴は、私の個性の1つでしかないと思います。

 それに目標ができたら、何でもできるんじゃないかと私は思っているのです。「自分には、できない」と未来の可能性にふたをするのは自分自身。「女性だからできない」なども同じだと思いますね。

 主婦って、家の中でマルチタスクをこなすじゃないですか。それは仕事においてもとても重要です。そして、家族に愛情を注ぐことを日常としているので、その心を持った人が社会に出てリーダーになると、心の満足度が高い社内環境を作る可能性が高く、いいことだと思います。

 働く女性から「出産を機に会社を一度離れないといけないから、ライフイベントと仕事の関係性に悩む」という相談を受けることがありますが、「出産したらいいんじゃない」って思います。子育てで培った心を持って会社に戻ったら、そのことが自分の新たな力になるかもしれないって思うのです。もし、休業中に主婦業や子育てのほうが楽しいと思ったら、そちらを選択すればいい。

 自分を型にはめず、その時々の思いに柔軟に寄り添って人生を歩んだほうが、幸せだと思いますね。