日本企業の実態は「DX以前」?

 翻って、世界レベルで最先端であり続け、ある程度以上の規模でまだ成長を続けている日本企業は、何社くらいあるだろうか?

 ある企業で実際に体験した事例から、日本企業のDXにおいて、なぜ、どんな「X」が重要なのか、一緒に検討していただきたい。

「5年以内に100億円規模の売り上げが確実に見込める新規サービスでないと、投資はできない。発想は面白いが、私たち役員を納得させるだけの確実な事業提案に練り直して再挑戦してくれ」

 ほぼこの通りの発言で、提案が差し戻された。明確な否決ではなかった。

 結局チームは1年弱の期間をかけ、再検討を続けた。その間、延々と続く会議、そのための資料作成。実際に可能性のある仮説を、顧客や市場、事業パートナーなどに直接問いかけてフィードバックを得ようとすると、「外に話すには早すぎる」と言われて、動きが取れない新規事業部門。DXで会社や事業のあり方を変えようという以前の段階だ。

 大手企業であれば、課長や部長程度の決裁権限規定の中で「私が決めました」と言いさえすれば、実行に移せる案件はいくらでもある。しかしながら、新規性の高いアイデアはいつの間にか社内でさまざまな会議体での討議という保険にかけられる。

 直接責任を取らない関係各所から会議中に質疑の形で出される“貴重なフィードバック”には、すべて対応しないと前に進められないという企業風土がある中で、どれだけの新しい案件を前に進めることができただろうか。顧客や市場に向かうための時間や、必要とされるスピードと合わせて考えると、あまりに膨大な時間と費用が社内での合意形成に費やされている。

 DXを進めるために「X」を考えなければならないという理由は、まさにここにある。