日本企業の成功とこれからの挑戦

 富士フイルムは、「ライバルはコダックではなく、デジタル技術」と考えた。そして、フィルムやカメラ関連事業が衰退していく中、過去の成功にこだわって最後には倒産したコダックと同じ戦い方をするのではなく、自社が考えたことを成功させることに焦点を当てて、事業ポートフォリオを変えることに成功した。

 一方で、関連会社の旧・富士ゼロックス(現・富士フイルムビジネスイノベーション)が築いた「ドキュメント ソリューション」領域を、フィルムではなく、紙がなくなっていくという世界でどうやってさらに飛躍させられるだろうか。「ビジネスイノベーション」という新しい領域を設定することで、新しい価値をまた生み出すことができるだろうか。

 同様に、最近復活を遂げたソニー(現・ソニーグループ)は、アナログからデジタルへと技術が移り変わる中で、CDで一世を風靡(ふうび)しながらも、パッケージメディアというビジネスモデルがストリーミングというモデルにより市場を奪われた。そんな中で不採算事業を整理しながら、デジタル化を支える映像系センサーと、プレステや映画、音楽などのコンテンツ事業で成長軌道に戻ってきた。

 日本中心の市場で限定されている金融事業や、コンテンツ、製造業という多角化は、一時期のGEを思い起こさせる。ホンダとの提携を発表したEV事業も含めて、ソニーらしい多角化で持続的な成長をどう成立させるか、というチャレンジを抱えている。

 この2社には共通していることがある。デジタル技術の変革の中で、自社の成功体験を捨てる変革を断行したことだ。変革に必要なのは、将来の正解を当てるための調査や計画を完璧にすることではない。正解自体や、新しい世界観自体を創り上げるという気概と行動であり、そのためにはリーダーシップ行動と、それを可能にする企業風土がセットになっていなければならない。

 フィルムをより効率的に製造するためのデジタル化や、デジタルウォークマンでパッケージを売るという、「X」が伴わないデジタル化に走っていたとしたら、今頃両社ともに市場に存在さえしていなかったかもしれない。

 コーポレートガバナンス・コードにうたわれている独立社外取締役の設置も、その目的は、リスクを取り過ぎないように取り締まるためではない。実際はその逆で、適切なリスクをしっかり取って、DXなど成長戦略への資源配分をする経営変革のための外部の視点だと、東証もうたっている。

 今こそ、小手先のデジタル化ではなく、変革の足腰である意思決定と実行力を高めるためのリーダーシップ開発、それを可能とする企業風土改革に真剣に向き合うことが必要だ。

 その中で、上の6つの質問のうちの2つ目の質問である、DXという変革により成し遂げたいことは何か、という企業存続のための根本的な命題に、自ら答えを設定して、それを実現していっていただきたい。