本書の要点

(1)本書は「地図から消えた国々の記事集」だ。滅亡国家には、無視できない、恥ずべき過去が多すぎる。
(2)国家の崩壊は、見栄や金銭にまつわる、ささいな「他者との違い」をきっかけに起こることが少なくない。

【必読ポイント!】
◆傀儡と駆け引きの道具
◇クリミア共和国

 国家として成立していた期間は2014年3月17~18日、約200万人が住み、ロシア語、ウクライナ語、クリミア・タタール語が話されていた。

 何世紀もの間、征服と再征服がクリミアを舞台に繰り返されてきた。最初の入植者はキムメリオス人であり、スキタイ人に侵略された際に集団自殺を選んだとされる。スキタイ人の後は、ギリシャ人、タリア人、ゴート人、さらに歴史が下ってルーシ人、ハザール人、アルメニア人、モンゴル人、ジェノヴァ人がこの地を支配してきたという。

 その後、「大ゲルマン帝国」を掲げるナチスに支配され、残忍な傀儡政権のもと、多くの犠牲者が出た。さらにはスターリンに引き継がれ、人口の大半を占めるクリミア・タタール人を強制収容所に移送しようと企てた。

 その後、半島はソ連からウクライナへ譲られた。ソ連が崩壊するとウクライナはクリミアとともに西側に近づく動きを見せる。

 クリミアにある不凍港セヴァストポリはロシアにとって利用価値があった。プーチンは大事な港が自分の監視下を離れる事態を看過できなかった。

 2014年3月16日、クリミアは住民投票でウクライナからの独立を宣言した。ロシアに編入される直前で、何らの説得力も持たない独立だった。諸外国は投票結果を疑問視した。

 この編入劇の裏には複雑な事情もあった。スターリンによるクリミア・タタール人殺戮の後、半島の多数派であるロシア人の多くは、祖国と運命を共にすることに賛成していた。